TCFDへの対応(2024年度)

レンゴーグループは、気候変動によるリスクおよび機会に関連する影響評価、対応策の立案と推進が、持続可能な社会の実現および事業の持続可能性を高める上で不可欠であると認識し、2021年12月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言への賛同を表明し、2022年度より同提言に沿った情報開示を行っています。2025年度は、これまでに開示してきた板紙・紙加工関連事業および軟包装・重包装関連事業におけるリスクおよび機会の評価結果に加え、環境委員会の下で行っている温室効果ガス排出削減に向けた活動実績を追加することで開示の充実を図りました。 気候変動への対応を重要な経営課題とし「脱炭素社会の形成」に向け、温室効果ガス排出量の削減を進めるとともに、TCFDの提言に沿った情報開示の充実にも取り組みます。

TCFD ロゴ
ガバナンス

経営品質の向上と将来のリスクの低減あるいは回避等を目的に、代表取締役会長を委員長とするCSR委員会の下部組織として環境経営推進部の責任者を委員長とする「環境委員会」を設置し、環境経営を推進しています。環境委員会は、環境経営推進部が事務局となり、年4回の頻度で開催され、当社グループ全体の環境目標の達成状況や環境法令の遵守状況、TCFD開示進捗状況を確認し、気候変動への対応を含む環境に関する全社的な方向性や目標・計画等を審議・決定し、CSR委員会に報告しています。
CSR委員会に報告された内容については、案件の重要性や緊急度に応じ、取締役会が必要に応じて改善策を審議・決定する仕組みとすることで、環境経営に対する監視と指導が有効に働く体制を構築しています。
環境委員会では、板紙の製造工程で必要な水に関するリスクやその他の主要なリスクについても幅広く気候変動に関連付けて把握し、対策を推進しています。
以下を環境委員会の下部組織として設置しています。

脱炭素ワーキンググループ

環境委員会委員を含む部門間横断メンバーで構成し、温室効果ガスの排出削減について、情報収集や当社各部門の活動計画・進捗状況を審議しています。
グループ環境活動会議

国内グループ各社にて、温室効果ガスの排出削減等の環境関連活動の進捗状況を管理しています。
温室効果ガス(以下、GHG)排出量削減に関する活動実績

●脱炭素ワーキンググループ(2024年度)
詳細 実施月 議題
【構成メンバー】
  • ・代表取締役社長兼
    COO
  • ・環境委員会委員
  • ・各部門の代表者
【主な活動】
  • ・GHG排出量削減に関する動向、
    技術に関する情報収集
  • ・GHG排出量削減に関する
    中長期活動計画の立案、
    進捗の管理と達成状況の検証
  • ・適宜、進捗や実績を環境委員会へ
    報告
2024年9月
  • ・環境中期目標数値の再確認(脱炭素関連)
  • ・各部門における脱炭素に向けた取組みの
    事例とその進捗状況についての情報共有
2024年10月
  • ・Scope1・2・3の削減取組みの検討
  • ・脱炭素関連方針の検討
2024年12月
  • ・電力における脱炭素の取組みについての
    意見交換
  • ・GXリーグについての情報の共有
2025年3月
  • ・国の方針、計画の動向確認
  • ・国内グループ各社の取組みの
    進捗状況の共有
●グループ環境活動会議(2021年度~2024年度)
詳細 成果 内容
【構成メンバー】
  • ・レンゴー単体
  • ・国内グループ各社
【主な活動】
  • ・環境委員会で検討された
    GHG排出量削減方針の周知
  • ・設定された目標の達成に向けて
    自社で可能な対策の検討・実行を推進
  • ・適宜、進捗や実績を
    環境委員会へ報告

再生可能エネルギー
の導入

【実施内容】

  • ・太陽光発電設備について、
    設備導入やオンサイトPPA
    採用

燃料転換の実施

【実施内容】

  • ・温室効果ガス排出量削減を目的に、
    より低炭素エネルギーへの
    切り替えを実行
※PPA (Power Purchase Agreement)電力の需要家が発電事業者(PPA事業者)から直接電力を購入する契約形態の一つ。発電事業者が、電力の需要家の敷地や建屋に太陽光発電設備を設置し、所有・維持管理をしたうえで、発電した電気を需要家に供給する仕組みをオンサイトPPAモデルと呼ぶ。需要家は初期投資なしで再生可能エネルギーの調達が可能となる。
●実例:GHG排出量削減の取組み
拠点名称 レンゴー(株)愛媛東温工場(愛媛県東温市)
稼働開始月 2024年1月
取組み内容 同拠点は、旧松山工場(愛媛県松山市)から移転し新設した工場です。同工場ではCO₂排出量削減を目的に建屋の屋上にメガソーラーを設置するほか、燃料を従来のA重油からLNGに転換しています。これらの取組みにより、同工場の2024年度のCO₂排出量は2013年度と比較して約4割の削減を達成しています。
※移転前の旧松山工場の実績値
レンゴー(株)愛媛東温工場
リスク管理
リスク・機会の特定とマネジメントシステムを通じた対応の枠組み

当社は重要な環境側面ならびに環境法規制等を考慮の上、環境委員会での審議を経て、環境経営の推進にかかる事業計画上のリスク・機会を特定しています。
環境委員会およびCSR委員会では、リスク・機会を特定の上、その発生可能性と影響度を評価するとともに、即時ないし中長期といった対応の時間軸を念頭に、取組みの優先順位付けを行っています。その上で、リスクについては軽減または移転あるいは制御等を、機会については獲得あるいはリスクからの転換を図ることを目的とした事業計画の検討を行っています。また、社内規程の制定、マニュアルの作成等を指揮するほか、全社的状況の監視を行っています。
取締役会では、特定されたリスク・機会の認識を踏まえ、環境経営にかかる事業計画の遂行を監督するとともに、全社的状況を踏まえ、必要に応じて改善策等を審議・決定しています。
これらのリスク・機会の認識に則し、当社は「エコチャレンジ2030」をはじめとする環境目標の達成、ないし当社グループとステークホルダーにとっての価値創出および損失回避に資する対応の戦略的枠組みを具体化し、当社各部門およびグループ全体で運用しています。環境経営推進部はその運用を調整・指導するとともに、現場人材の教育や資格取得補助等の支援計画を立案するほか、緊急事態への対応や定期訓練を含む運用、パフォーマンスの監視、測定、分析、評価とその実効性を担保する監査を行っています。
当社グループでは、これらのパフォーマンスにおいて改善の機会を特定し、その後のパフォーマンス改善につながる施策を遂行するとともに、その効果をモニタリングするサイクルを継続することで、気候変動に対するレジリエンスの向上に努めています。
これらのマネジメントシステムにおいては、その全体にトップマネジメントが関与し、環境パフォーマンスの継続的な改善を指揮することで、当社グループ全体のマネジメントシステムの一つとしての実効性確保を図っています。

気候変動対策およびリスクマネジメントのガバナンス機構

図版

環境委員会

○構成メンバー
社長、委員長※1、副委員長※2、委員※3
オブザーバー※4

※1 環境経営推進部の責任者
※2 財経本部の責任者
※3 パッケージング部門企画本部、同管理本部、同生産本部、同技術開発本部、同開発本部、製紙部門生産本部、同技術開発本部、資材部門、研究開発・環境経営推進部門中央研究所、財経本部、国内関連事業本部、海外関連事業本部、情報システム本部、経営企画部、コンプライアンス推進室、総務部、広報部に属する各部門長のうち指名を受けた者および製紙部門八潮工場長
※4 常勤監査役、東部営業業務部、西部営業本部、国内グループ各社

○開催頻度
年4回
○議題
・環境目標の進捗状況、環境法令の遵守状況の確認
・気候変動対応を含む全社的な方向性等の審議・決定
・リスク・機会の特定、発生可能性と影響度の評価
指標と目標

当社グループは、2025年4月に環境に関する中長期目標の見直しを実施しています。2050年を目途とする長期目標「レンゴーグループ環境アクション2050」を掲げ、温室効果ガス排出量実質ゼロの達成を目指しています。また、2030年度を目途とする中期目標「エコチャレンジ2030」では、国内グループ各社を対象に削減目標を設定するとともに、最終的にはSBT(Science Based Targets)を達成すべく着実に取組みを進めています。

環境に関する中長期目標
グループ全体
(連結会社)
○長期目標
レンゴーグループ環境アクション2050
バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量
の実質ゼロを目指す
日本
(レンゴー単体および
国内連結子会社※1
○中期目標
エコチャレンジ2030
2030年度までに温室効果ガス排出量(Scope1+2)※2
を46%削減
(2013年度比)
※1: 事務所、倉庫等の非製造拠点を除く
※2: 「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく調整後温室効果ガス排出量
温室効果ガス排出量※1(Scope1+2)の推移(「エコチャレンジ2030」対象企業※2の実績) (単位:万t-CO₂)
  2013年度
(基準年)
2021
年度
2022
年度
2023
年度
2024
年度
2030年度
(目標年)
Scope1
105 108 98 92 91
Scope2 45 41 40 37 38
Scope1+2 150 148 138 128 129 81
※1: 「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく調整後温室効果ガス排出量
   2024年度から目標を見直したことにより、基準年および目標年を含む各年度の実績値を変更しています。
※2: 2024年度時点のレンゴー単体および国内連結子会社
図版

戦略-気候変動関連のリスクおよび機会と対応策
シナリオ分析の概要

当社グループでは、気候変動に関する事業影響を把握し、気候関連リスク・機会に対する戦略のレジリエンスを評価することを目的として、シナリオ分析を実施しています。
期間としては短期(1~3年後)、中期(2030年)、長期(2050年)の想定の下、今回は、2030年時点における外部環境を予測し、その予測に基づいた分析を実施しました。
シナリオについては、パリ協定を踏まえて低炭素経済に移行する1.5℃シナリオと、現状の想定以上の気候変動対策は実施されない4℃シナリオを設定しました。1.5℃シナリオでは、炭素税が導入されるなどの気候変動対策が強化されることに加え、平均気温上昇による気候変動に伴う物理的な影響も発生すると仮定しました。4℃シナリオでは、気候変動対策は現状と同程度でありながらも、大雨や猛烈な台風等の気候変動による物理的な影響が生じると仮定しています。
シナリオ分析については2022年度の初回開示より、部門横断型ワークショップでの議論を重ね、上述の気候変動によるリスクと機会の絞り込み、予想される財務影響の把握、対応策の検討を行うとともに、炭素税については1.5℃シナリオでの財務的影響額を試算しました。その後はこの再算定に加え、板紙・紙加工関連事業において重要度の高いリスク要因の内、電力価格、天然ガス価格、浸水による損失額を試算しました。また、軟包装関連事業の中核企業である朋和産業株式会社、および重包装関連事業の中核企業である日本マタイ株式会社を対象とするシナリオ分析を加えました。
これらの分析の結果を踏まえ、当社グループでは各シナリオにおけるリスクおよび機会を考慮し、環境経営を推進してまいります。

想定したシナリオ
4℃シナリオ 1.5℃シナリオ
化石燃料依存型の発展で、気候政策を導入しない最大排出シナリオ。 持続可能な発展の下で気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオ。
IPCC SSP5-8.5(気温上昇3.3-5.7℃)またはSSP3-7.9(気温上昇2.8-4.6℃)を想定。
IEA Stated Policies Scenario (STEPS)
IPCC SSP1-1.9(気温上昇1.0-1.8℃)
IEA Net Zero Emission by 2050 Scenario (NZE)
主要なリスクおよび機会と影響度の要約
リスク/
機会のタイプ
事象 重要度の
定性評価※1
財務影響の
評価※2
4℃

シナリオ
1.5℃
シナリオ
1.5℃/4℃
シナリオ
移行
リスク
政策・
法規制
炭素税の導入・強化
工場設備に対する新たな規制強化  
排出規制やエネルギー使用の規制 小~中 中~大  
市場
リスク
電力小売価格上昇
天然ガス価格の変動

(板紙・紙加工関連事業)

古紙の需給ひっ迫

 

(軟包装関連事業/重包装関連事業)

石油由来原材料価格の高騰
小~大 小~大  
機会 市場機会 金融市場やステークホルダーからの
気候変動対策と情報開示への
要求の高まり
 
製品・
サービス
最先端の低炭素技術の開発および
低CFP需要拡大
 
資源の
効率化
物流におけるCO₂削減および
物流効率化
 
物理
リスク
急性 災害の激甚化と頻繁化(豪雨、洪水、
高潮)による施設への影響等
小/大 小/大 小/大
※1: 重要度の定性評価については「発生可能性」「影響度」を「低(小)=1点」「中=2点」「高(大)=3点」に分け、それを組み合わせたマトリクスに従い「小=1点ないし2点」「中=3点ないし4点」「大=6点ないし9点」とする3段階の基準を設けました。
図版

※2: 財務影響度の評価については、一定の前提条件の下で試算した金額に対し、連結売上高(2021年3月期~2025年3月期の5カ年平均)の6%を基準に「大」「中」「小」とする3段階のしきい値を設定しました(下表のとおり)。

財務影響度(3段階評価)
全事業共通のしきい値 20億円未満 20~55億円 55億円以上
気候変動シナリオにおいて想定される重大なリスク・機会の認識と対応策

(重要度の定性評価「大」について)

【移行リスク】 政策・法規制

リスク・機会 対応策 対応の時間軸
炭素税の導入・強化
GHG排出規制の強化

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:高
・影響度:中/大
カーボンクレジットの購入
短期
運送業者と協力した運送効率化による
GHG排出削減
サプライヤーとの協働による調達資材の
低炭素化
GHG排出量削減目標の設定
省エネ、低炭素エネルギー/
再生可能エネルギーへの転換
板紙製造工程で副生される廃棄物の
エネルギーとしての有効活用
VOC設備での回収排熱の活用による
エネルギー使用量低減
GHG排出が少ない原材料や仕入品の採用
設備投資や生産技術向上によるロス削減
中長期
○リスク・機会の認識

1.5℃シナリオでは、気候変動対策としての規制が強化される中、炭素税をはじめとする環境税負担あるいは排出権取引の拡大に伴うカーボンプライシングが普及する可能性が高く、当社グループでもその対応が必要となることから、財務影響の顕在化が想定されます。
なお、2030年時点を想定した現時点での分析では、1.5℃シナリオにおいて炭素税の導入による財務影響は142億円となりますが、環境目標「エコチャレンジ2030」の目標達成を目指す中で、国内グループ企業のうち温室効果ガスの排出量が多い企業で目標が達成される場合に回避される税負担は121億円と試算しています。
※ 省エネ法対象企業16社(板紙・紙加工関連事業、軟包装関連事業、および重包装関連事業に属する当社および子会社)、非製造拠点を除く。

当社への財務影響
2030年時点の財務影響試算
炭素税導入
(想定条件) 財務影響額
炭素価格の前提
先進国における2030年の炭素価格としてUSD 135/ton-CO₂
(20,250円/ton-CO₂、1ドル=150円)を適用※1
温室効果ガスの排出量が多い企業※2で目標達成のケース(①)
炭素価格の前提に対し、当社グループ(国内)※2 における
Scope1+2が2013年度(約1,300千ton-CO₂)比46%削減
された場合の排出量(約700千ton-CO₂)を乗算
△142億円
温室効果ガスの排出量が多い企業※2で目標未達成のケース(②)
炭素価格の前提に対し、当社グループ(国内)※2 における
Scope1+2が現行「エコチャレンジ2030」を設定した
2021年度実績並み(約1,300千ton-CO₂)で横ばいと
なった場合の排出量を乗算
△263億円
エコチャレンジ2030」達成で回避される税負担(①-②) 121億円
※1: World Energy Outlook 2023, Table B.2 (IEA, 2023)を参照。為替レートは2025年3月末時点の数値を適用。
※2: 省エネ法対象企業16社(板紙・紙加工関連事業、軟包装関連事業、および重包装関連事業に属する当社および子会社)、非製造拠点を除く。
<対応策> リスク回避

脱炭素社会の実現に向けた動きがグローバルで加速する中、環境規制の強化や企業に求められる対応が継続的に拡大していく状況を踏まえ、エネルギー転換のための設備投資や取引先との協働による低炭素化を進めることで、中長期的な観点からリスク回避(軽減、移転、制御等)を図ります。
設備投資の実施に際しては、その費用対効果と炭素税負担の比較から適否を判断しているほか、ICP(内部炭素価格)の導入による排出コストの認識とその削減に向けた意識の醸成、オンサイト/オフサイトPPAによる太陽光発電の活用、非化石証書をはじめとする環境価値の購入等についても検討可能と位置付けています。
なお、CO₂排出量削減努力の範囲を超えて財務影響が生じる蓋然性が著しく高まった場合、もしくはカーボンクレジットの購入等により財務影響が生じ、即時的対応を余儀なくされる場合、当社グループではその影響を最小化する適正な製品価格の実現により、リスク軽減を図ります。

規制の強化
リスク・機会 対応策 対応の時間軸

工場設備に対する新たな規制強化

排出規制やエネルギー使用の規制

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中/高
・影響度:大
  • 生産性の向上
生産体制の見直し
中長期
○リスク・機会の認識

1.5℃シナリオでは、従来型設備の更新や改修に際し、新たな排出規制やエネルギー使用規制に対応するため、再生可能エネルギー発電設備や省エネ機器等の導入等が要件となる場合があり、それに伴う追加的費用が生じる可能性が考えられます。

<対応策> リスク回避

生産性の向上による排出量の抑制やエネルギー使用量の低減に努めつつ、既存の工場容積を維持した状態では効率的な原単位改善ができない場合、拠点分散等を含む生産体制の見直しによる工場容積の低減も検討可能と位置付けています。追加的投資に対する費用に対しては、補助金等を可能な限り活用することで投資額を抑制しつつ、適正な製品価格の実現が可能な場合、リスクは十分回避できるものと考えています。

【移行リスク】 市場リスク

1. 電力小売価格上昇
リスク・機会 対応策 対応の時間軸

電力小売価格上昇

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:高
・影響度:大
  • 電気エネルギーの効率的使用による
    原単位改善
  • 工場の稼働・調達の平準化
  • 再生可能エネルギーの導入
  • 廃プラの熱回収による電力使用量削減
中長期
○リスク・機会の認識

1.5℃シナリオでは、電力供給における再生可能エネルギーの普及をはじめ、電源構成の変化に伴い、購入電力コストが増大する可能性が高く、当社グループでも財務影響が顕在化することが想定されます。
なお、2030年時点を想定した現時点での分析では、1.5℃シナリオによる電力小売価格上昇の財務影響の評価を以下のとおりとしています。

当社への財務影響
2030年時点の財務影響試算
電力小売価格上昇
影響度:大
(想定条件)
  • NGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)
    NZ 2050:日本における2030年の電力価格が
    2020年比18.20円/kWh上昇
  • 当社の2030年度の電力消費量を7億kWhとして上記に乗算
  • 事象の発生可能性を一定程度考慮し、
    影響度を大中小の3段階で評価
<対応策> リスク回避

需給バランスの均衡維持や品質保持が難しいという電力エネルギーの特性を踏まえ、エネルギー使用の効率化による原単位改善、稼働・調達の平準化により、価格変動に伴うリスクの制御を図っています。
また、即時的対応としては、価格の上昇や変動の影響を最小化する適正な製品価格の実現により、リスク軽減を図ります。
中長期的には、製紙工場等の拠点における再生可能エネルギー発電設備またはボイラの設置あるいはPPAモデルの活用等により、価格変動に伴うリスクの軽減ないし移転を図るほか、電源構成のシフトを段階的に進めることでリスク回避を図ります。

2. 天然ガス価格の変動
リスク・機会 対応策 対応の時間軸

天然ガス価格の変動

<重要度の定性評価>
(4℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中
・影響度:大
  • 省エネの推進による原単位改善
  • 燃料転換によるエネルギー構成の最適化
 
中長期
○リスク・機会の認識

4℃シナリオにおいては、石油価格の上昇に連動した天然ガス価格の上昇あるいはGHG排出量が少ないエネルギーへの移行や炭素のダイベストメント等によるガス需要拡大も価格上昇圧力となり、当社グループでも財務影響が顕在化することが想定されます。
なお、2030年時点を想定した現時点での分析では、4℃シナリオによる天然ガス価格の変動の財務影響の評価を以下のとおりとしています。

当社への財務影響
2030年時点の財務影響試算
天然ガス価格の変動 影響度:中
(想定条件)
  • NGFS NZ 2050:日本における2030年の天然ガス価格が
    2020年比171円/GJ上昇
  • 当社の2030年度の天然ガス消費量を14千TJとして
    上記に乗算
  • 事象の発生可能性を一定程度考慮し、
    影響度を大中小の3段階で評価
<対応策> リスク回避

当社グループにおいて、天然ガスは基幹エネルギーとして使用量が多いため、省エネの推進による原単位改善を通じ、リスク制御を図っています。また、即時的対応としては、価格・数量の両面で調達をより安定化させるため、長期契約の締結等の対策を講じつつ、価格の上昇や変動の影響を最小化する適正な製品価格を実現することで、リスク軽減を図っています。
また、中長期的には、安定調達の継続を前提に、CO₂を排出せず、かつ価格変動に伴うリスクが相対的に小さい再生可能エネルギーへと天然ガスから転換することにより、リスク回避を図ります。

3. 古紙の需給ひっ迫(板紙・紙加工関連事業)
リスク・機会 対応策 対応の時間軸

古紙の需給ひっ迫

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中
・影響度:大
  • 市場全体での価格変動の平準化
短期/中長期
○リスク・機会の認識

1.5℃シナリオにおいては、森林伐採の抑制やエネルギー使用量削減での優位性により、バージンパルプから古紙への代替が進むなど、古紙の需給ひっ迫から調達コストが増大する可能性も考えられます。当社グループでは古紙使用量が多いことから、古紙価格が上昇した場合、大きな財務影響を受けることになります。

<対応策> リスク回避

古紙は製紙事業における主要原材料として使用量が多いため、価格の上昇や変動の影響を最小化する適正な製品価格の実現により、リスク軽減を図ります。
中長期的には、取引先と当社グループが相互に、古紙の価格変動を平準化することが双方の持続可能性を高めるとの共通認識をもち、その下で在庫水準が常に適正化に向かうサプライチェーンを確立することで、リスク制御を図ります。

4. 石油由来原材料価格の高騰(軟包装/重包装関連事業)
リスク・機会 対応策 対応の時間軸
石油由来原料価格の高騰

<重要度の定性評価>
(4℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中
・影響度:大
  • 生分解性原料の加工技術の確立、
    品質の確保、これらを可能にする設備投資
  • バイオマス原料の利用拡大
  • 再生樹脂原料の利用拡大
  • 石油由来原料の使用量が少ない製品の開発
    (薄肉化)
中長期
○リスク・機会の認識

4℃シナリオでは脱炭素化への動きが相対的に鈍く、石油・石油化学品の需要が増加傾向をたどる一方、災害の頻発・激甚化を伴う気候変動が供給を減少させる可能性もあり、ポリオレフィンフィルムの購入量が多い軟包装関連事業、重包装関連事業では原材料費が上昇するリスクを認識しています。

<対応策> リスク回避および機会獲得

原材料費の上昇や変動の影響を最小化する適正な製品価格を実現することでリスク軽減を図ることを基本としつつ、中長期的には、石化由来からバイオプラスチック素材、バイオ化学品への転換、再生樹脂原料の利用拡大によってリスク回避を図ります。同時に、これらの製品需要の拡大や技術開発への投資呼び込み等の機会獲得も図ります。

【機会】 市場機会

リスク・機会 対応策 対応の時間軸

金融市場やステークホルダーからの気候変動対策と
情報開示への要求の高まり

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中
・影響度:大
  • 板紙・紙加工関連製品のCFPの算定や開示
  • 高い古紙利用率による持続可能性の
    訴求を含む環境情報の積極的な開示
  • 気候変動への着実な取組みと成果の発信
中長期
○リスク・機会の認識

1.5℃シナリオにおいては、企業が気候変動に伴うリスク・機会をいかに認識し、対応しているかが一層重視されるようになり、当社の企業価値評価や信用格付けにも反映されることが想定されます。

<対応策> 機会獲得

当社グループでは、気候変動問題に伴うリスクの消極的側面のみならず、その対応強化が競争力の獲得につながるという機会としての側面を重視し、一連の取組みの具体的な内容と見通しに関する情報開示の拡張ないし深化を図ることで、中長期的な観点からサステナビリティ開示の質と量の向上に努めます。

【機会】 製品・サービス

リスク・機会 対応策 対応の時間軸

最先端の低炭素技術の開発

低CFP需要拡大

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:中
・影響度:大
  • 省エネ、再生可能エネルギー・
    低炭素エネルギーへの転換
  • 低炭素化を進めるサプライヤーとの
    協働によるCFPの低い製品の開発
中長期
○リスク・機会の認識

当社グループにおいて板紙・段ボール製品の原料の大半は、リサイクルによる資源循環を基盤としていることに加え、製造工程における省エネの率先的な取組みにより、CO₂排出量原単位低減で優位性を高めてきました。さらなるCO₂原単位削減にも努めていますが、1.5℃シナリオにおいては、低炭素化への要求のさらなる高まりから、当社グループの対応力にも今以上に期待が集まるものと認識しています。

<対応策> 機会獲得

中長期的には、低炭素化ニーズへの対応が競争優位性の向上につながるとの認識から、製品のライフサイクルでの排出量や資源の使用量等の分析(ライフサイクルインベントリ分析:LCI)と、それらの環境影響の評価(ライフサイクル影響評価:LCIA)を含むライフサイクルアセスメント(LCA)を包括的に行い、取引先との協働も含めた低炭素化を戦略的に推進します。また、一連の分析および評価に基づき、低炭素化の成果の進捗を開示し、環境優位性を訴求することで市場機会の獲得を図ります。

【機会】 資源の効率化

リスク・機会 対応策 対応の時間軸

物流におけるCO₂削減および物流効率化

物流効率化の一体的な推進

<重要度の定性評価>
(1.5℃シナリオ)
・重要度:大
・発生可能性:高
・影響度:中
  • モーダルシフト
  • パレット輸送、まとめ納品、配送拠点の
    効率的利用等の推進
  • 物流効率を最適化するパッケージや
    包装システムの提供
中長期
○リスク・機会の認識

物流は産業部門に次いで温室効果ガス排出量が多く、運送事業を擁する当社グループにおいても環境負荷の低減の必要性を認識しています。1.5℃シナリオにおいては、物流効率化のニーズが一層高まるのみならず、政策的支援ないしは規制が強化される可能性が高いと認識しています。

<対応策> リスク回避および機会獲得

当社グループにおいては、グリーン経営認証を受けた事業所を中心にエコドライブの推進、低公害車の導入等、輸配送や荷役における低炭素化に取り組んでいるほか、当社でも海上輸送へのモーダルシフトや輸送網の集約等によりリスク軽減を図っています。
また、薄物化、軽量化をはじめ、物流の効率性を一段と高める包装設計に加え、当社グループ全体で包装モジュールおよびユニットロードの効率化を図り、高度なグリーンロジスティクスを推進することで政策的支援獲得の機会ないし市場機会の拡大を図っています。

【物理リスク】 急性

1. 定性評価
リスク・機会 対応策 対応の時間軸

異常気象対応での強靭化投資増大
異常気象災害被災時の復旧等
異常気象に伴う各種経費増大
(運賃、保険料等)

販売先の異常気象災害被災による
売上減・在庫増

<重要度の定性評価>
(1.5℃/4℃シナリオ)
・重要度:小/大
・発生可能性:中
・影響度:小/大
  • 調達先の分散と選択による
    サプライチェーンマネジメントの強化
  • ハザードマップ等を考慮した
    浸水対策の強化、拠点立地選択
  • 生産拠点における災害リスクの
    特定と設備投資計画への反映
  • 生産拠点における水害対策
    (嵩上げ、止水板、非常用発電機等)、雨水・排水流路の分離
  • サプライチェーンマネジメントの
    強化と自社グループの連携による
    全拠点を対象としたBCP実効性の確保
  • 気候変動に起因する被害に対する
    保険への加入
中長期
○リスク・機会の認識

環境リスクに分類されるものの中でも自然災害や異常気象は甚大な資産の毀損ないし財務上の損失につながる蓋然性が高く、想定されるインシデントの多様化ならびに激甚化への対応力を継続的に高める必要があります。
板紙・紙加工関連事業では、全国各地に段ボール工場の緻密なネットワークを擁していることから、被災地における事業の中断・阻害をバックアップできる点が強みとなっています。軟包装関連事業および重包装関連事業でも拠点間のバックアップ体制があるほか、非常時を想定し、予め適切な量の在庫を備えておく等の対応策を総合的に適用しています。 しかし、気候変動に伴うインシデントの多様化・激甚化に加え、サプライチェーンにおける取引先との相互依存性の高まりや都市部需要地での生産・物流の負荷集中は、これらのリスクに対する脆弱性として、その適切な把握と影響を軽減する対策が不可欠と認識しています。

<対応策> リスク回避

異常気象に伴う災害発生時に生じる事業の中断・阻害の期間の短縮、ないし経時的影響を抑制し、製品の供給責任を果たすBCPを策定するとともに、演習プログラムの実施やインシデント対応要員、事業活動の再開を担う要員の育成・確保に取り組んでいるほか、事業活動の遂行に不可欠な情報およびデータ(バイタルレコード)のバックアップの安全性を高めるなど、BCPの実効性確保を図っています。
また、事業の中断・阻害のリスクを特定・評価し、災害発生時の経時的影響が甚大、かつ防災・減災対策が有効なインシデントとして、水害を念頭にハード面での対策を強化しているほか、パートナーやサプライヤーに対する依存関係とリスクを分析・評価し、必要に応じて分散調達を行うなど、サプライチェーンマネジメントの強化を図っています。

財務影響の評価

1. 基本的な考え方
気候変動に伴う物理リスクとしては洪水を主要な自然災害と認識し、立地により浸水リスクが高い拠点を「浸水ナビ」(国土交通省)に基づいて特定しました。続いて、当該拠点での想定浸水深を設定し、浸水時の被害・損失額を試算の後、財務影響を「大」「中」「小」の3段階で評価しました。ただし、「浸水ナビ」は1000年に一度の洪水を想定したものとなっており、ここでの被害・損失額の試算も1000年に一度の規模の洪水が発生した場合のものとなっています。また、この評価に際しては、グループ内で営業停止期間中のバックアップが可能な場合、営業停止に伴う売上高の減少は相当程度カバーされることを前提としています。なお、2030年時点では4℃シナリオと1.5℃シナリオによる影響の違いはないものとしています。
評価対象の特定から被害・損失額の試算および財務影響の評価までのフロー、ならびに試算の前提条件は以下のとおりです。
○評価フロー
  • ①評価対象拠点(浸水リスクが特に高い拠点)の特定
  • ②想定浸水深の設定と被害・損失額の試算
  • ③バックアップの可否の検討と財務影響の評価
○被害・損失額の試算の前提
(A)営業停止損失額=1日当たり売上額×影響日数
(B)建物被害額=対象資産価格×浸水深別被害率
(C)償却資産被害額=対象資産価格×浸水深別被害率
(D)在庫被害額=対象資産価格×浸水深別被害率
 被害・損失想定額=(A)+(B)+(C)+(D)
※影響日数、浸水深別被害率は国土交通省「治水経済調査マニュアル(案)」(2020年4月)に従った。なお、(A)営業停止損失額は売上高に休日を含む連続日数を乗じた試算値であり、利益における実損とは異なる。
○財務影響の評価
試算した金額に対し、板紙・紙加工関連事業、軟包装関連事業、重包装関連事業の各セグメント売上高(2021年3月期~2025年3月期の5カ年平均)の6%を基準に「大」「中」「小」とする3段階のしきい値を設定(下表のとおり)。
財務影響度(3段階評価)
板紙・紙加工関連事業 13億円未満 13~35億円 35億円以上
軟包装関連事業 2.5億円未満 2.5~6.5億円 6.5億円以上
重包装関連事業 1.2億円未満 1.2~3.2億円 3.2億円以上
2. 事業別の財務影響試算
板紙・紙加工関連事業
①評価対象拠点
レンゴー株式会社東京工場
埼玉県川口市領家5丁目14-8

国土交通省 地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ)
https://suiboumap.gsi.go.jp/
②想定浸水深の設定と
被害・損失額の試算

想定破堤点
荒川左岸29.2km
想定浸水深
2.3m
被害・損失額の試算
(A)営業停止損失額 = バックアップの可否により変動
(B)建物被害額 = 28億円
(C)償却資産被害額 = 75億円
(D)在庫被害額 = 5億円
ただし、(B)(C)(D)については保険によって全額補償されることを想定。

③バックアップの
可否の検討と
財務影響の評価

バックアップの可否
荒川と新芝川の合流点に位置する当該拠点の水害リスクは高いものの、想定浸水域外に位置する近隣のグループ拠点がバックアップし、営業停止損失額は拡大しない想定です。建物や在庫の被害損失は保険によって全額補償されることを想定しています。

財務影響の評価
軟包装関連事業
①評価対象拠点
朋和産業株式会社仙台工場
宮城県柴田郡柴田町大字下名生字剣水32番地

国土交通省 地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ)
https://suiboumap.gsi.go.jp/
②想定浸水深の設定と
被害・損失額の試算

想定破堤点
阿武隈川左岸15.2km
想定浸水深
1.8m
被害・損失額の試算
(A)営業停止損失額 = バックアップの可否により変動
(B)建物被害額 = 2億円
(C)償却資産被害額 = 2億円
(D)在庫被害額 = 80百万円
ただし、(B)(C)(D)については保険によって全額補償されることを想定。

③バックアップの
可否の検討と
財務影響の評価

バックアップの可否
阿武隈川が近くを流れる当該拠点の水害リスクは高く、過去には被害を受けたこともありましたが、非常時には他の4工場(干潟、習志野、京都、福岡)でバックアップが可能です。また、主要顧客向け安定供給対策としての在庫や、外部倉庫を活用した物流網も整備しており、営業停止損失は拡大しない想定です。

財務影響の評価
重包装関連事業
①評価対象拠点
日本マタイ株式会社埼玉工場
埼玉県久喜市菖蒲町昭和沼22番地

国土交通省 地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ)
https://suiboumap.gsi.go.jp/
②想定浸水深の設定と
被害・損失額の試算

想定破堤点
庄兵衛堀川右岸5.8km
想定浸水深
0.7m
被害・損失額の試算
(A)営業停止損失額 = バックアップの可否により変動
(B)建物被害額 = 12億円
(C)償却資産被害額 = 33億円
(D)在庫被害額 = 6億円
ただし、(B)(C)(D)については保険によって全額補償されることを想定。

③バックアップの
可否の検討と
財務影響の評価

バックアップの可否
庄兵衛堀川が近くを流れる当該拠点には一定の水害リスクがありますが、これまで被害を受けたことは現時点ではありません。浸水により営業停止を余儀なくされた場合、一部製品の生産が一時的に止まることはありますが、他工場および子会社および協力会社でのバックアップが可能です。また、水災による損失をてん補する利益保険にも加入しています。

財務影響の評価