環境・社会 / 社会科学の実践(1)

社会科学の実践


 先ほどお話したとおり、私は関西生産性本部の会長を務めています。経営学を学ぼうとしている人にとって一番重要なことは、生産性をどのようにして向上していくか、ということですが、生産性(Productivity)とは一体何なのでしょうか。間違ってもよいので、大きな声で答えてみてください。

学生:「時間あたりにどのくらい価値のある仕事ができるかということだと思います。」


 1時間あたりどのくらい価値のあるものをつくれるか、ということは、何をつくるために投入していますか?

学生:「生産物です。」


 経済という言葉はよく耳にしますが、では経済とは何なのでしょうか。

学生:「人々が生産したものを交換する場だと思います。」


 基本的なことをまず自分のものにしておくことが大切です。1、2年生のうちに基本的なことをマスターしておくと、これが後々とても強い戦力になってきます。
 私は神戸大学在学時、ほとんど勉強しませんでした。しかし、基本的なことだけは人に負けないように、学校で教わるというよりも自分で勉強していました。
 そもそも「経済」という言葉がどこから生まれたかというと、福沢諭吉が英語の「economy」を「経済」と翻訳したのが始まりです。中国の古典に出てくる「世を治め民を救う」という意味の「経世済民」の「経」と「済」をとって「経済」という言葉にしたのです。「経済」という言葉はそもそも「経世済民」からきているという基本的なことを知っておかねばなりません。
 それではその経済において、生産活動を行う、ものをつくり出すためには一体何が必要でしょうか。

学生:「資本が必要だと思います。」

 

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 基本的なことですが、「経済」とは我々が財とサービスをつくり出すことです。財とサービスをつくり出すために必要なものが土地と労働と資本であり、これが生産の三大要素です。労働と資本を投入し、それをいかに財として復元させるか、ということが生産性の一番のポイントです。労働と資本をインプットし、アウトプットとして財とサービスを得るということが生産であり、これが経済の基本となります。このような基本的なことが分かっていないと、経営学部でいくらBS(Balance Sheet:貸借対照表)やPL(Profit and Loss Statement:損益計算書)について勉強しても、何も進みません。勉強するにあたっては、まず基本をマスターしてほしいと思います。

 少し話がそれましたが、“Less is more.”の基本には「用・強・美」があります。“Less”については、エネルギーの消費をできるだけ抑え、二酸化炭素排出量をできるだけ少なくしていくということであり、“High quality products with more value-added”、この“value”が最も重要で、財というのは一種の“value”ですから、“value”をいかに“added”していくのか、ということが基本となります。
 段ボールには、Aフルート、Bフルート、Cフルートなど、厚みによっていろいろな種類があります。そのなかで、私が社長になってからつくり出した新しい段ボールが⊿(デルタ)フルートです。
 レンゴー スマート・ディスプレイ・パッケージング(RSDP)は、サービス産業の生産性を向上するために開発したもので、段ボールを開封すればスーパーなど店頭の陳列棚にそのままディスプレイすることができます。
 “Less energy consumption”の実現のため、太陽光発電や再生資源の活用に取り組んでいます。福島矢吹工場では必要なエネルギーの3分の1を太陽光発電で賄っており、金津工場では蒸気タービン、尼崎工場ではガスタービンで自家発電を行っています。新名古屋工場では輸送面の効率化を図るため、できあがった製品を自動で出し入れするラックビルシステムを導入しています。
 八潮工場ではバイオマス発電を行っており、朋和産業では揮発性の薬品を回収するマテリアルリサイクルを行っています。日本マタイでは廃棄物RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)化設備を設置し、廃材・廃液を全て再利用しようという取組みを行っています。
 段ボールの原料のほとんどは古紙です。皆さんが使った後の段ボールを回収し、再び段ボール原紙をつくり、段ボールケースにしています。板紙のリサイクル率は約94%で、世界でも日本が最高の水準にあります。

 

講義資料


 レンゴーは、原紙から段ボールの全てでFSC®森林認証(Forest Stewardship Council)を取得しています。FSC森林認証は、適切に管理された森林や、その森林から切り出された木材の適切な加工・流通を証明する国際的な認証制度で、レンゴーの段ボール製品が持続可能な森林資源の保全にも貢献することが第三者機関により認められたことになります。
 我々が考えなければならないのは、つくり上げたvalueを一般の方々とshareすることができるシステムをつくり上げていくことです。CSV(Creating Shared Value)としていろいろな試みを進めています。
 日本は南極へ毎年観測船を出していますが、荷物の梱包には冷凍しても大丈夫な段ボールが使われており、それらを全てレンゴーが寄付しています。

 安倍政権のもとで、女性の活躍推進、働き方改革への取組みが進んでいますが、これは非常に重要なことで、日本人の働き方は、他国、特に先進国に比べて遅れている部分があり、そして女性がもっと社会へ出て働くことができる社会全体のシステムをつくり上げなければならないと思います。
 レンゴーでは、大学新卒採用の少なくとも3分の1は女性です。当社のビジネスにおいてはデザインは非常に重要な要素ですが、デザイン・マーケティングセンターという部署のメンバーの大半は女性です。これが大きな効果を発揮しており、例えば今まで広告代理店に発注していたユーザーから、どんどん注文をいただいています。
 皆さんはレンゴーという会社をあまり知らなかったかもしれませんが、レンゴーが社会に貢献する企業であることを理解してください。

 

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 これからの時代は、どのような時代になっていくのでしょうか。私が言い続けているのは、今年以降しばらくの間は「VUCAの時代」が来るということです。「V」は「Volatility(変動性)」、「U」は「Uncertainty(不確実性)」、「C」は「Complexity(複雑性)」、「A」は「Ambiguity(曖昧性)」で、これらの言葉で表されるような時代に入ったのではないかと思っています。
 「Volatility」とは、揮発性がある状態、火を点けたらぱっと燃えてしまうような状態を指しており、トランプ大統領の誕生が最も分かりやすい例だと思います。
 それから「Uncertainty(不確実性)」がどんどん増しています。不確実性が増しているということについていえば、神戸大学の社会・人文学系の皆さんが、本当の意味でがんばっていかなければなりません。数字だけで物事を判断すると、かえって間違う可能性があります。そこで必要となるのが、人文系、社会系であり、これを基本に学ばなければならないと思います。
 「Uncertainty(不確実性)」を本当の意味でしっかりとつかむことが必要です。リスクというものは数字の計算でつかめるかもしれませんが、リスクを通り越したCrisis、危機、これは数字ではつかめません。そのために戦争が起こったりするわけです。それを抑止するためには、社会・人文学系である皆さんが、本当の意味の「人間社会はどうあるべきか」をさまざまな方面から分析していく必要があります。

 それから「Complexity(複雑性)」、世界が非常にComplex(複雑)な状況にあるということです。
そして最後に「Ambiguity(曖昧性)」です。これは、答えは一つではなく二つも三つもあるという、非常にAmbiguous(曖昧)な状態であり、そのなかでどれをチョイスするのかが問題になってくる、ということです。

 1980、90年代から、レッセフェール(laissez-faire)、自由放任主義が行き果てたところに、金融工学、要するにお金だけを動かして利益を得ようとするという発想が出てきましたが、これは果たして正しいことなのでしょうか。人間に必要なのは「Numeracy(基本的な計算能力)」と「Literacy(読み書き能力)」、これらをアルゴリズム(algorithm)といいますが、数字だけを扱っていては、物事は絶対に解決しません。
 デカルトが見つけ出した「虚数(imaginary number)」というものがありますが、金融工学ではこの虚数を用いて物事を動かしています。
 プラスとプラスを掛けるとプラス、マイナスとマイナスを掛けてもプラスになるのが数字の基本です。ルートマイナス1という数字が世の中にあるのか、というところから考え出されたのが虚数です。宇宙に関する計算を行うために必要となるのが虚数ですが、金融工学の一部では、虚数を利用しています。

 このように、「VUCAの時代」に対応していかなければならないということを認識してほしいと思います。
 その基本は、「The speed of thought」思考回路をできるだけ速くすること、「Expect the unexpected」想定できない状態を想定すること、それくらいの能力を持たないと、Ambiguous(曖昧)な状態には対応できません。

 そのような時代に入ったという前提のもとに、学生の皆さんには、キャンパスライフにおいてこのようなこと(勉学、語学、社会科学、読書、歴史、趣味、スポーツ…)に取り組んでもらいたいと考えています。