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アジアにおける事業戦略とリーダーシップ

質疑応答


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Q1:
人に自分の思い、考えを伝える能力はリーダーシップを発揮する上で不可欠だと思いますが、誤解を与えないための伝え方や、リーダーシップをとっていく上での伝え方として工夫されていることはありますか。

A1:
 学説的、論文的な難しい言葉を使うと、きちんと聞いてくれない方もいます。まずは易しい言葉を使い、もっと聞きたいとなれば詳しく話す、ということを心掛けています。

 

Q2:
リーダーシップについて、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という話がありましたが、人数が多くなっていくと、基本的な概念というのは変わるのでしょうか。

A2:
 人数が多くなっても、基本は変わりません。リーダーが複数いる場合は別ですが、一人である場合には「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という基本は変わりません。
 また、部下に対しては、次の精神だけは持ち続けてほしいと思っています。
 「逆命利君、謂之忠」(命に逆らいて君を利する 之を忠と謂う)
 私と意見が違っても、違った意見をどんどん言ってほしいと思います。部下の意見のほうが正しいということもあります。命に逆らい、それでも君を利する。この「忠」の精神が非常に重要です。
 一番不要なのは、「逆命病君、謂之乱」(命に逆らいて君を病ましむる、これを乱と謂う)です。「乱」というのは、上司の言ったことに反対して、さらに上司の足を引っ張ることです。
 一般的に多いのは、「従命利君、為之順」(命に従えて君を利する、これを順と為し)です。
 また、時々こういう人もいます。「わかりました。言われた通りにやります。」と言いながら、ちっともやらない。これを騙人、うそつきといいます。
 これらは漢時代に劉向が編纂した「説苑」という書物の中に出てくる言葉です。命に従えても、命に逆らえても、君を利する精神を積極的に持ち続けてほしいと思います。必ずしも上に立つ人間が言うことが正しいとは限りません。部下が上司に対して「それは間違いです。私はこうやります」と言うことによって、良い結果につながることもあります。これが「君を利する」ということです。このような精神が今、日本では非常に乏しくなってきています。「やってみせ…」だけではなく、逆命利君の精神も持ち合わせてほしいと思います。

 

Q3:
大坪社長が人生において、座右の銘、志として持っている言葉を教えてください。また、私たち学生が読むべき本などがあれば、教えてください。

A3:
 「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」これは夏目漱石の「草枕」の冒頭の一説です。そのあとに、「住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。」という言葉につながっていきます。
 私は、会社経営では、頭を素早く切り替えること、そして新しいことに気が付くこと、これが非常に重要であると思っています。例えば、ある不採算事業があって、これをどの時点で整理するかを考える時には、やはり「草枕」の冒頭を思い起こします。既存の事業を整理することほど難しいことはありません。「詩が生まれて、画が出来る」と気分を切り替えることは、重要なことです。
 もともと経済というものは社会科学であって、自然科学のように全てが数字で解決できるものではありません。もっと言えば、はたして経済は科学であるのか、という疑問もあります。生産性とは何かということを突き詰めていくと、「Productivity is above all things a state of mind.」すなわち「生産性は心の持ちようである」という、1959年のヨーロッパ生産性本部ローマ会議における言葉に辿りつきます。これを数字で表すというのは非常に難しく、生産性を科学(science)で解決することはできません。 Scienceに相対するものはArtsですから、やはり経済、経営においては「詩が生まれ画が出来る」と、気分を切り替えるということが非常に重要です。

 

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Q4:
社会に貢献できる企業でありたいというお話がありましたが、何がきっかけでそのように思ったのか教えてください。今の私の考えとしては、社会に貢献できたらよいとは思いますが、正直に申しあげると、自分がどれだけ金が稼げて、どれだけいい身なりをし、いい服を着るかということが一番大事かと思っています。大坪社長は最初から社会に貢献したいと思っていたのか、それとも何かをきっかけに社会に貢献したいと思ったのか、お聞きしたいです。

A4: 
 1962年に住友商事に入社した時は、やはりお金儲けをするのが商社の仕事だと考えていました。1975年頃から海外勤務となり、マレーシアのクアラルンプールの支店長を務めていた時のことです。ある時、日本人駐在員とマレー人の出張旅費精算を見た時に、マレー人の旅費のほうが安くなっていることに気づきました。本俸・サラリーベースが異なるのは当然だと思いますが、日本人駐在員とマレーシア人とで出張旅費や出張手当が異なるのは差別であると考え、手当や給付金については、全て統一しました。するとこれをきっかけにマレー人が本気になって働きだし、非常に大きな契約を取ることに成功したのです。この出来事が、差別が一番いけないことであり、社会貢献をするためには差別をなくしていくことが重要である、ということを気づかせてくれたのです。
 そのあと、南アフリカでも同じようなことがありました。当時はまだ人種差別政策があり、給与体系についても差別が存在することが明らかでした。これについても修正しようと考えました。
 「差別」は英語でsegregationといい、一方「区別」はdiscriminationといいます。「discriminationはまだいいが、segregationはやめてほしい」とローカルの人に言われたことがあります。差別をなくすためには、どれが差別でどれが区別かを判定しなければなりません。リーダーシップはそこにあります。同じ出張で、同じホテルを使うにもかかわらず、出張旅費手当に差があるということは完全な差別であり、これを一切破棄することが、私の社会貢献の第一歩でした。そして、ローカルに対して貢献することが組織の業績向上につながる、ということにも気づいたのです。
 レンゴーでも同じようなことがありました。レンゴーは、1999年にセッツと合併しましたが、私が社長に就任した当時は、レンゴーの給与体系のほうがセッツよりも高かったために、レンゴーとセッツそれぞれ組合の間にも意見の相違がありました。さまざまな問題がありましたが、2004年にレンゴーを下げ、セッツを上げる形で給与体系を統一しました。レンゴーの組合からは猛反対がありましたが、レンゴーが本当に伸びるためには必要なことでした。
 社会貢献をしていく上では、差別をこの世の中からなくしていくということが重要です。何が差別かという定義は難しいですが、表面に現れた問題については解決していくことが、リーダーシップの一つです。

 

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Q5:
雑誌「経済界」2014年10月21日号掲載『視点』の‘「フェアトレード」とは’を読みましたが、最近では、企業がリーガルマインドを満たしていることにあぐらをかいて、モラルマインドを軽視しているような風潮があるという理解でよろしいでしょうか。

A5:
 これは企業もさることながら、その指導的地位にある官僚機構、政治家等々が法律一辺倒では困るということです。日本には長い歴史があり、その中で自然に生まれた慣習、あるいはマナー等の道徳があって、世の中の日本の生業はそこからできています。それをグローバリズムと称し、法律一辺倒で処理しようということについては、いかがなものかと思います。日本をリードする立場にある政治家や官僚の方々には、その辺の平衡を保っていただきたいと思っています。

 

Q6:
リーダーシップをとる立場において、生かすことができた学生時代の経験があれば教えてください。

A6:
 私は学生時代あまり勉強はしませんでしたが、いろいろな経験はしました。大手前高校時代にはバレーボール部で活躍しました。私が入学した時は、5部リーグの最下位に近い状態でしたが、キャプテンを務め、卒業前には1部リーグの2位までにチームを引き上げました。また、神戸大学でも、私が入学した時は3部リーグの最下位だったチームを、卒業する時は1部リーグに昇格させました。
 神戸大学で勉強したことで役に立ったのは、アダム・スミスの『国富論』を原文で読破したことです。アダム・スミスについては、おそらく大学の経済学部の先生方とそれなりに対等の討論ができるぐらいの知識が頭につまっています。何か一つのことに集中して完全にマスターすることが重要です。

 

Q7:
バレーボールのチームを大坪社長の力で下位から上位へあげたとのことですが、その時にはすでにリーダーシップの自覚があり、ここが悪いから直せばよくなるというようなことがあったのでしょうか。

A7:
 当時はサーブを2回打つことができ、1回目は上からオーバードライブ、2回目はアンダーサーブをしていましたが、こんなことでよいのかと考えました。われわれの勝機はサーブを研究することだと考え、今では女子バレーでよくやっているフローターサーブを考案しました。フローターサーブはボールが全く回転せず、野球でいうナックルボールと同じであり、ネットのところで落ちます。これにより圧倒的に勝ち始めるようになりました。もう一つは、他校は背の高い人ばかりでしたので、まともに戦うと全てブロックされます。そのブロックを避けて打つ方法として、時間差攻撃も考え出しました。いろいろな研究をして生み出すことです。

 

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Q8:
格言をたくさん紹介いただきましたが、どのように情報を収集されていますか。

A8:
 いつ勉強したり、情報を集めたりしているのかとよく聞かれますが、自覚を持ち、興味をもっていろいろなことに取り組まないと難しいと思います。情報は、英語ではインフォメーション(information)、インテリジェンス(intelligence)、データ(data)といい、アメリカのCIAはCentral Intelligence Agencyの頭文字をとったものです。私は「情」は「情け」、「報」は「報いる」で、情報の原点は「情けに報いる」ことであると考えています。単純に起こった事象のデータを集めて分析するだけではなく、「情けに報いる」ことを考えながら取り組むと、自然といろいろなことが身に付きます。

 

 最後に、大阪大学に対してお願いがあります。大阪大学は世界大学ランキングで157位でした。2031年には100周年を迎えますが、その時には、世界中の大学の中で10位以内になれるよう、平野学長以下で頑張ろうとのことでした。そのことを学生の皆さん自身が理解し、大阪大学をさらに発展させていかなければなりません。こういうことを言うのもリーダーシップです。10位以内を目指して頑張ってもらうようお願いいたします。