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アジアにおける事業戦略とリーダーシップ

アジアにおける事業戦略とリーダーシップ(2)
講師:レンゴー株式会社 代表取締役会長兼社長 大坪 清


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 本日はリーダーシップと経営理念について、どのようなことを基本において経営に取り組んでいるか、具体的に皆さんにお話いたします。

 私は1962年に住友商事に入社し、2000年にレンゴーの社長に就任しました。レンゴーは一部上場会社であり、資本金310億円、売上高5,230億円、連結消去前の単純合算では7,000億円を超える企業です。一部上場会社で、売上高が7,000億円を超えるような企業で、15年間も社長が変わらない企業は非常に珍しいと思います。レンゴーは今年で創業105年目を迎えます。105年間で5人しか社長が出ていない会社ですから、私もまだもう少しやらざるを得ないと思っています。

 2000年の社長就任以降、レンゴーは大きく変わりました。その一つは、社会貢献です。私の経営理念の一番根底にあるのは、「社会に貢献できる企業であること」です。経営トップ、および経営陣、そして、従業員一人一人が社会に貢献し、レンゴーという会社組織としても社会貢献できる、そのことを基本において経営を行ってきました。

 もう一つは、それまでの段ボール一筋、段ボールという一つのコアコンピタンスから飛躍、発展させ、今はヘキサンゴン経営と称して、6つのコア事業で経営を行っています。
 6つのコア事業というのは、段ボール事業、段ボールの原材料である板紙事業、段ボールの中に入るパッケージである印刷紙器事業、印刷紙器のさらに内側に入るパッケージである軟包装事業、重量物向けの重包装事業、そして海外事業です。これらを総合して、「ゼネラル・パッケージング・インダストリー」=GPIレンゴーといっています。
 ヘキサゴンとは六角形のことですが、それぞれの事業を充実させ、正六角形に近づけていきます。これ以上コア事業を増やすつもりはありません。仮に新たな事業ができても、六角形の中のどこかのコアコンピタンスに集約していくつもりです。なぜ六角形にこだわるかといいますと、正六角形の一つの内角の角度は120度で、この120度というのは人間が手をつなぐ時に一番安定する角度だからです。
 私は、シンプリシティ(simplicity)、セルフコンフィデンス(self-confidence)、スピード(speed)の3S(スリーエス)をモットーにしていますが、そのうちの一つ、シンプリシティの発想で考えれば、正六角形の一つの内角の角度は非常に簡単に導き出すことができます。多角形は、複数の三角形から構成されています。六角形は、4つの三角形から構成されています。三角形の内角の和は180度ですから、4つの三角形で構成される正六角形の内角の和は180度×4=720度となります。これを6つの角で割るので、一つの内角の角度は720度÷6=120度となります。
 私は、このような単純思考で会社の経営を行っています。皆さんにも単純思考で物事を考えてほしいと思います。

 

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 現在、6つのコアコンピタンスの中で社会貢献しているものの一つが重包装事業、いわゆるフレキシブルコンテナバッグです。
 フレキシブルコンテナバッグは、ポリプロピレン等をヤーン(糸)にして長い繊維を作り、それを編んで大きな袋にしたものです。この袋の中には、1.5トンから2トンの重量物を入れることができ、通常は土嚢用などに用いられています。東日本大震災で大量に発生したがれきや除染土は、焼却などの最終処分が決まるまで、宮城県、福島県、岩手県の仮置場に保管されていますが、この保管には固い容器は向いていません。そこでレンゴーグループの日本マタイが作っているフレキシブルコンテナバッグが非常に役立っており、社会貢献につながっています。

 フレキシブルコンテナバッグ以外にも、社会で役立っているレンゴーグループの製品があります。皆さんがコンビニエンスストアなどで買う三角形のおにぎりの包装フィルムは、レンゴーのグループ会社である朋和産業のパテントです。毎日大量のおにぎりが生産されていますが、このうち70%の包装フィルムは朋和産業が作っています。

 もう一つは、PTP包装(Press Through Package)という錠剤用のパッケージです。こちらも日本マタイが作っています。

 さて、このように社会に貢献できる企業にするため、また個人的にも社会貢献をしなければならないという思いでいる中で、私が座右の銘にしている言葉を紹介します。

 「有道得財 和気生財」(財を生むに道あり 気を和して財を生め)

 企業がずっと存続し、従業員の生活を守るためには、財を生まなければなりません。経済活動の基本は、土地と労働、資本をフルに使って財とサービスを作り出すことです。先ほど紹介した言葉にあるように、私は財を生み出すための道を考えています。そして基本的なことは、「全ては現場にある」ということです。

 

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 私は、現場にこそ真理があり、企業経営の基本は現場である、と思っています。現場にこそ真理がある、ということを英語でわかりやすく表現した言葉があります。それは「Boots on the ground」です。要するに、長靴を履いて地面を歩きまわること、これが現場そのものです。
 戦争には空中戦と水中戦と地上戦があります。空中戦と水中戦だけでは絶対に勝負はつかず、最後は地上戦になります。地上戦というのが現場です。ビジネスを戦争に例えるのは良くないかもしれませんが、企業がさらに発展していくためには、地上戦が非常に重要です。この地上戦の原点は、現場を知る、ということです。

 現在、私が一番力を入れているのは、“Less is more.”をテーマにした取組みです。“Less is more.”とは、いかに費用を効率化させるか、いかに大きな価値を生み出していくか、ということです。
 当社は今年(2014年)7月にハワイで新しく工場を稼働させたのですが、そのオープニングセレモニーのスピーチでもこの思いをお伝えし、現地の方々に大いに共感いただきました。私たち製造業が今一番注意すべきなのは、可能な限り二酸化炭素排出量を減らし、エネルギー消費をできる限り少なくしてモノをつくることです。LessとはLess carbon emissions(炭酸ガスの低排出)、Less energy consumption(エネルギーの節約)であり、MoreとはHigh quality products with more value-added(さらに付加価値のある高品質の製品を作り上げること)です。ハワイでの工場建設も、この“Less is more.”につながっています。ハワイには今まで段ボール工場が一つも無く、アメリカ西海岸で製造した段ボールを運搬していました。しかし段ボールはご存じのとおり段になっているので、まるで空気を運んでいるようなものです。この改善策として、現地でレンゴーが段ボールを製造することにしました。これぞ“Less is more.”の取組みといえるでしょう。


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 また、“Less is more.”はレンゴーだけのテーマではなく、広く社会一般においても重要な経営テーマであると思います。

 企業は、財、サービスを生み出し、利益をあげますが、その利益(付加価値)をどのように社会へ分配し、還元するかが重要です。
 付加価値の分配は、一般的に、労働分配(労働者に対する人件費)、資本分配(設備投資や株主配当など)、租税分配(納税)に分類されますが、これらに加えて、社会貢献も分配・還元方法の一つです。
 例えば、社会貢献の一つとしてメセナ(企業による芸術文化の振興活動)があります。レンゴーでは1992年以来、オーケストラ・アンサンブル金沢の活動を後援しており、非常に好評を得ています。また、本日のこの講義も一種の社会貢献といえるでしょう。
 レンゴーも、従業員も社会貢献しています。また、私が会長を務める関西生産性本部(KPC)では、生産性向上に役立つさまざまなプログラムを提供しています。これも、社会貢献の一つです。

 社会貢献は成功していると思いますが、会社経営を行う中で、リーダーとして今後のことを考える上で重要になるのは「若手人材の育成」です。人材教育の方針として私が社内で言い続けているのは、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という山本五十六の言葉です。
 人を育てていく上で一番大切なことは褒めることです。また、部下に対してただ指示を出すだけではなく、自らが先頭に立ちやってみせることが重要です。これが真のリーダーシップの基本です。

 もし、それでも部下ができないのなら、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉があるように、部下が本当にやろうと思っていないからだ、ということになります。
 この二つの言葉を理解することで、リーダーシップとは何か、ということを本当の意味でわかってもらえると思います。

 最後にもう一つ、道徳心についてお話します。「経国済民」は「経済」という言葉の語源ですが、その意味するところは、国民がお互いに信頼し合い、道徳心(モラルマインド)を基本において、秩序・法規(リーガルマインド)を作り上げていく仕組みだといえます。しかし最近は、金科玉条のごとくリーガルマインドばかりに重きをおく流れがあるように感じます。モラルマインドで重要であるモラルセンチメント(道徳的なセンス、感情)は、アダム・スミスの『道徳感情論』でも語られています。惻隠の情(シンパシー)がわからない人間は、どんなに立派であっても真のリーダーにはなれません。

 

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