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生産性が未来を拓く(Productivity is a state of mind)

生産性が未来を拓く(Productivity is a state of mind) 1
講師:レンゴー株式会社 代表取締役社長 大坪 清


1. はじめに
2. 世界の概況
3. レンゴーについて
4. 経済について

 

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1.はじめに

 私は神戸大学経済学部を昭和37年に卒業しました。学生時代は部活動のバレーボールが中心の毎日でしたが、アダム・スミスの「国富論」についてはゼミで原書を読み、しっかりと勉強をしました。「国富論」の原書のタイトルは「An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations」であり、皆さんにもぜひ「国富論」の原書を改めて読んでいただきたいと思います。
 アダム・スミスの国富論は1776年に出版されましたが、16世紀末から18世紀にかけてのヨーロッパでは、各国で競争し、重商主義(mercantilism)が当時の経済運営の基本となっていました。植民地を互いに拡張し、軍を使い、国をコントロール下に収め、自国でつくった製品を売ることで金・銀、財貨などの富をかき集めていく時代でした。
 アダム・スミスは「国富論」を記し、その重商主義を批判しました。国富論の書き出しは分業論から始まります。冒頭のスミスの言葉を紹介します。

「The greatest improvement in the productive powers of labour, and the greater part of the skill, dexterity, and judgment with which it is anywhere directed, or applied, seem to have been the effects of the division of labour.」

 分業することで生産性、“skill”と“dexterity”があがるということです。“skill”は匠の技であり、“dexterity”は技術を使うということです。生産性の原点は、ここにあります。

 皆さんも原書で第一章だけでも読んでいただいたらよいと思います。
 この国富論の中で、私が特に皆さんに紹介したいのは、第四章に出てくる「見えざる手(invisible hand)」です。各自が、労働と土地と資本を使って財をつくり出しそれぞれ努力することで、見えざる手で結ばれ1つの社会が構成されていると書かれています。これが正しい姿であり、重商主義は間違っているとスミスは述べています。この“invisible hand”は、日本語では、神の見えざる手として有名ですが、国富論の中では、神という言葉は一切使われてはいません。
 生産性の原点は、アダム・スミスの国富論にあると思いますので、まず覚えておいていただきたいと思います。

 経済学は社会科学であり、自然科学ではありません。自然科学と社会科学の違いは、自然科学は数字で表され、実験ができ、真理が1つしかないものであるのに対し、経済学では公式めいたものはできるものの、完全な真理というものはないということです。アインシュタインの相対性理論は数字で表されますが、経済学においてはこれが絶対的な正解というものはありません。
 安倍首相が進めるアベノミクスについても、人間の気持ちを変えることで、経済がいかに動いてくるかということに尽きます。経済学や経営学は社会科学であり自然科学でないことをよく覚えておいていただきたいと思います。

 

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2.世界の概況
 ヨーロッパは欧州債務危機を克服しつつありますが、中国は諸問題発生の可能性があります。米国はQE3(Quantitative Easing 3)から成長経済へ向かっています。アジアは成長しており、日本は、アベノミクスで注目され、経済誌や新聞に「Japan is back.」「The Sun also rises.」と書かれ、日の丸が再び昇り復活すると書かれてもいます。

 欧州の概況ですが、1999年にドイツ、フランスがリードし、ヨーロッパの統一通貨ユーロが出来上がりました。しかしながら、このユーロ圏内部が揺らぎはじめました。ドイツ、フランスは安定した運営をしていましたが、PIIGSと称するポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン、これら5つの国が債務危機に見舞われ、特にギリシャは、最終的にはECBが全面的にバックアップするということで危機は乗り越えるでしょうが、欧州全体の債務危機の引き金となりました。このように、主に南のラテン系の国々が危機に陥っているものの、北部の国は経済的にしっかりしており、欧州は今後必ず復活すると考えています。

 中国は、習近平氏が最高指導者となりましたが、国内問題も山積しています。

 米国は、QE3で安定成長しています。これは大胆な量的金融緩和の第3弾であり、これによって米国は完全に復活し、製造業も復活してきています。

 アジアは世界経済の発展の中心です。私は1980年代にマレーシアに駐在したことがありますが、当時、マレーシアはルックイースト政策をとっており、マハティール首相が日本に対し様々な優遇措置をしてくれていたことが印象深く残っています。

 

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3. レンゴーについて
 レンゴーでは様々なパッケージを製造しています。コンビニエンスストアのおにぎりやサンドイッチを包んでいるフィルムなどの多くもレンゴーグループの製品です。また、タバコのフィルターの中にも当社の製品が使われています。レンゴーの2012年度の売上高は5,000億円を超えています。

 大企業の社長は5年ほどで交代していますが、私は13年間社長業を続けています。
 当社は段ボールからスタートし、近年になりその領域を大きく広げ、板紙、段ボール、紙器、軟包装、重包装、海外事業の6つのコアコンピタンスを持つ六角形のヘキサゴン経営をつくりあげてきました。「ゼネラル・パッケージング・インダストリー」=GPIレンゴーとして、これら6つのコア事業を中心とし、事業経営を行っています。
 これは、ほんの一例にすぎませんが、当社は少子化対策として、従業員が3人目の子供をつくると100万円のお祝い金を出しています。この制度ができる2005年までは、3人目の子供をつくる社員は年間10人足らずだったのが、今は年間20人以上となり、この4年間で100名以上がお祝い金を得ています。このような積み重ねが社会を変える力となります。

 また、当社の取組みでは、“Less is more.”という言葉がありますが、これも生産性向上の1つのスローガンです。これは、より少ない資源で、より多くの付加価値をつくり出すということです。

先日、ハワイでの新工場地鎮祭のスピーチで、この“Less is more.”を説明しました。
 すなわち、“Less carbon emissions”、炭素の発生をできるだけ少なく、“Less energy consumption”、エネルギーの消費はできるだけ少なくする、そして“High quality products with more value-added”、より付加価値の高い高品質な製品をつくることだと言ったところ、出席者から喝采を浴びました。
 現地の方からは、早く工場を稼働させてくれという意見が圧倒的であり、ハワイの新工場は、早い段階で償却後の利益が出るのではないかと考えています。

 当社では、一貫して生産性と品質の向上を図っていますが、製紙業では歩留りが重要です。製紙業では 1トンの紙をつくるために10トン近くの水を必要としますが、この水を使い、古紙やパルプをパルパーという設備で溶かし、抄紙機を通すことによって、紙が出来上がります。例えば、1,000トンの原料を入れたら960トン以上の製品が出来ます。この歩留りの向上がまさしく生産性の向上につながります。
 結論から言うと、コスト削減を会社のマネジメントとして考えると「出ずるを制し入りを図る」ということです。会社の外へ出ていく費用をできるかぎり少なくし、利益をできるだけ多くするということです。

 日本語では少数精鋭という言葉がありますが当社では「全員精鋭」です。このようなことを会社経営の基本としています。
 私は、自然科学は数字で全てを表すことができ、実験ができるものであるのに対し、会社経営も含め、社会科学は実験ができないものであると考えています。これは、人間や社会を対象としているためです。このことを前提とし、事前に様々に考えながら対応していかなければならないということですが、最も重要なのは人間の心であると考えています。

 

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4. 経済について
 需要曲線と供給曲線は、皆さんもよくご存じだろうと思います。しかし、実際のビジネスで価格がいくらになるかは、数字や理論だけではなかなかつかめません。実際には、需要量、供給量を想像し、需要予測を行い、生産体制を考えながら進めなければなりません。
 供給が少ないときには価格は高いところで決まり、供給が増えれば価格は下がります。
 これは経済の基本であり、私は経営者として、需給バランスや在庫について、私自身で考え判断しながら会社の方向性を決定しています。
 国の経済全体を見るためにはマクロ経済を見なければなりません。
GDP(国内総生産)、GNP(国民総生産)、GNI(国民総所得)、ブータンの国王が来日された時に話題になったGNH(国民総幸福度)などの様々な指標がありますが、今日本で考えなければならないのはGDP、GNP、GNIです。安倍首相は1人当たり国民総所得(GNI)を150万円増やすと言われました。

 生産面からみたGDP(Y)、分配面からみたGDP(消費(C)+貯蓄(S)+租税(T))、および支出面からみたGDP(消費(C)+投資(I)+財政支出(G)+経常収支(X-Q))はそれぞれ等しくなります。つまり、
Y=C+S+T=C+I+G+(X-Q)
という式が成り立ちます。これが三面等価の原則です。
 さらに、この式を移項していくとS-I=G-T+(X-Q)が成り立ちます。現在の日本は、貯蓄超過(S>I)の状態にあり、財政赤字(G>T)と経常黒字(X>Q)の双方が生じています。この式では(S-I)、(G-T)、(X-Q)が全てプラスの状態です。
 アベノミクスは、貯蓄超過、財政赤字の現状を改革しようと、民間ベースでの投資を増やす環境をつくっていこうとしています。私は今のアベノミクスは経済政策としては正しいと思っています。
 投資が活発になることで、財貨とサービスが生まれてくるということがこの公式からもわかることでしょう。

 

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