環境・社会 / わが経営~Productivity is a state of mind~

わが経営 Productivity is a state of mind

わが経営~Productivity is a state of mind~ 1
講師:レンゴー株式会社 代表取締役社長 大坪 清


1. レンゴーとは
2. 新仙台工場の建設
3. 生産性と人文科学

 

講座資料

 

1.レンゴーとは
 レンゴーは、1909年(明治42年)に創業し、かつては聯合紙器と称していた、今年で104年目となる歴史ある会社です。創業者井上貞治郎が、日本で初めて段ボールを事業化し、今日では一般的な名称となった「段ボール」という言葉も井上貞治郎が考えたものです。
 もともとは段ボールからスタートしたレンゴーですが、現在は、板紙、段ボール、紙器、軟包装、重包装、海外という6つのコアコンピタンスを持つ六角形のヘキサゴン経営を行っています。皆さんの身近なところでは、コンビニエンスストアのおにぎりやサンドイッチの三角形のフィルム包装は当社グループのパテントです。また、カップラーメンの紙カップの胴の部分も当社のグループ会社が作っています。レンゴーは、段ボール、その中に入る紙器、個別に商品を包む軟包装と、幅広くパッケージに関わる製品全般を扱っています。
 特に最近、需要が伸びているのは、おにぎりなどで使われるフィルムのパッケージ、軟包装です。おにぎりに使われているのは、OPP (oriented polypropylene) というフィルムです。“orient”とはどういう意味でしょうか。「東方」と思われるかもしれませんが、「引き伸ばす」という意味もあり、この場合は、二軸延伸、縦横二方向に引っ張ることから“oriented polypropylene”と呼ばれています。

 

講義風景画像


 三角形のサンドイッチの包装のようにすぐ破れるフィルムはCPP(cast polypropylene)と呼ばれ、これは延伸していないフィルムです。皆さん方がコンビニでおにぎりやサンドイッチを買われる時に、「これはOPP、CPPというフィルムなのか」ということを思い出していただけたらと思います。
 レンゴーは、資本金310億円強、売上高は約5,000億円の会社です。日本国内に子会社を含めて工場は約160カ所、海外には約40カ所あります。そのうちの一つである仙台工場が2011年3月11日の大地震と大津波で壊滅的な被害を受けました。現地からの報告を受け、同じ場所での復旧・復興は不可能と判断し、直ちに新たな場所で新工場をつくることを決定しました。

 

講座資料

 

2.新仙台工場の建設
 この新仙台工場の建設は、「震災からの復興」であり、まさに、皆さん方がよくご存じのシュンペーターの「破壊と創造」を実行したということです。このような時には「経営判断と決断力」が非常に重要であり、“destructive creation”、または、“creative destruction”ということを実践したことをお分かりいただければと思います。
 震災直後に、従来の場所での仙台工場の復旧は不可能と判断し、3月29日の役員会で、新たな土地を購入することを決めました。同じ宮城県の内陸部に位置する黒川郡大和町に、新工場に適した空地があったため、すぐに手当をし、6月末までに工場の建築確認を取れるようにし、1年以内に工場を完成させるよう指示しました。当時はまだ震災直後で大変なこともたくさんありましたが、建設会社、あるいは機械メーカーに連絡を取り、宮城県の村井知事はじめ、地元自治体のご協力も得て、翌年3月15日には起動式を執り行い、なんとか1年で完成させることができました。
 新工場建設にあたっては「百万一心」の言葉どおり、全員が力を合わせて一つの事業に取り組みました。「百万一心」とは、戦国武将の毛利元就が吉田郡山城(広島県安芸高田市吉田町)築城に際し、それまでの人柱の代わりに石碑を建て、そこに「百万一心」と刻んだ言葉です。この石碑の「百」の「ノ」の部分が消え「一日」となり、「万」という字も「一力」と読めることから、「一日、一力、一心」、すなわち、一日一日、全員が一つ一つの力を出し合い、心を一つにして事業を進めていこうという意と捉えました。私はこの新工場に「百万一心」を象徴するモニュメントを建ててはどうかと提案し、震災で亡くなられた方々の鎮魂と、震災からの復興に皆が心を一つにして取り組んできた絆、未来への決意を込め「一心の塔」と名付けたモニュメントを設置したのです。

 

講義風景画像

 

 さて、この新仙台工場のスタートを経済学的に言い換えると、すぐに土地の手当てを行ったことで“土地”が確保され、旧仙台工場で働いていた社員の雇用は絶対に守るということで “労働”があり、そこに、“資本”の投入を行ったということです。これら“土地”と“労働”と“資本”を使って経済活動をし、そこで財貨とサービスを生み出すことが経済活動の基本です。
 アダム・スミスの「invisible hand」という有名な言葉がありますが、私なりに解釈すれば、これは、いろいろな人とのコミュニケーションをとることで、よりよい結果が生まれることだと思います。この言葉「見えざる手」を、日本語で表現すると「絆」になるのではないかと考えています。

 

講座資料

 

3. 生産性と人文科学
 1959年、ヨーロッパ生産性本部がローマで生産性大会を行った際に、生産性とは何かというステートメント、ローマ会議報告を発表しました。
「Productivity is above all things a state of mind. It is the belief that it is possible to make today better than yesterday. It is the will to make improvement no matter how superb the present condition. It is belief in the progress of mankind.」。
(生産性とは、何よりも精神の状態であり、既存するものの進歩、不断の改善をめざす精神の状態である。それは、今日は昨日よりも、明日は今日よりもまさるという確信である。それはまた、条件の変化に経済生活を不断に適応させていくことであり、新しい技術と新しい方法を応用せんとする努力であり、人間の進歩に対する信念である。)

 私は、このローマ会議報告はサミュエル・ウルマンの詩「Youth」から出てきているのではないかと推察しています。
「Youth is not a time of life ; It is a state of mind. It is a matter of the will, a quality of the imagination, a vigor of the emotions. It is the freshness of the deep springs of life. Nobody grows old merely by a number of years. We grow old by deserting our ideals.」


講座資料

 

 経済学や商学は、人文科学であって、自然科学ではありません。自然科学では、全てを数字で分析することができ、数字で解決できるのです。しかし、経済学や商学は、数字だけでは決して解決できない人文科学の分野です。

 

講座資料

 

 さて、ここで「草枕」を掲げました。作者が誰かはご存じですね。
「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。」
 この小説が、なぜ生産性に結び付くかということですが、先ほどの「Productivity is the above all things a state of mind」に通じます。
「草枕」の主人公は温泉に宿泊するのですが、そこで出戻りのおかみさんに出会います。そのおかみさんが主人公に自分の絵を描いてくれと頼むのですが、その主人公は、あなたの今の姿を描く気にはなれない、足りないところがあるということで絵にはならないと断り続けていました。そうしたところ、たまたまおかみさんと別れた元の旦那さんとが出会う事態となり、その様子を見て、元の亭主に会った時のおかみさんの姿、顔、心の内を見た途端に、「よし、描こう。」と気持ちが変わり、絵を描くというストーリーです。
 絵を描くということは、生産活動の一種といえます。描こうという気持ちになるような、新しい心境の変化へのきっかけがなければ、生産性の向上はなかなか難しいということを表しているのではないでしょうか。
 私は生産性についても、数字に表れない面が重要と考えています。それは、人間が持っている六感というべきものです。五感については、まず視覚“sight”、次に聴覚“sound”です。その次は嗅覚“smell”、次は味覚“taste”、最後は手で触る触覚“touch”となります。六感とは、人間の心を含めたものであり、これが、人文科学としての生産性の基本だと思います。

 

講座資料

 

 つまり、人文科学においては、数字だけではどうしても表れない部分があり、同様に生産性についても数字だけではどうしても表れない部分があるという考え方で、英文でまとめると以下のようになるでしょう。
「Productivity is both an art and a science. You can prepare for productivity quite scientifically but the execution of productivity has quite a lot to do with one’s artistry.」
 生産性は芸術と科学の両方の側面を持ち、科学的に分析をして準備をするのはよいが、生産性の実行にあたっては、人の心の動きや芸術性といったものが大きく関わってくるということです。

 数字について考えた時に、皆さんに身近な整数、まず実数があります。実数、整数ではどうしてもつくりきれない数字には分数があり、分数でもどうしても表せないものは無理数があります。この無理数でも数字として表せないものが虚数であり、虚数と実数を組み合わせたものが複素数です。整数と分数と無理数と虚数と複素数の5つの数字があれば、自然科学は全て表せるということになっています。しかし、生産性というのは心の持ちようであり、これらの数字ではどうしても表せない部分もあるということです。