環境・社会 / 関西起業塾-切り拓け 日本の未来

職業と学び-キャリアデザインを考える

切り拓け 日本の未来 2
講師:レンゴー株式会社 代表取締役社長 大坪 清


1.『国富論』
2.エネルギー問題
3.試行錯誤
4. 6Sと5S

 

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1.『国富論』
 今、われわれが考えなければならないことは、アダム・スミスの『国富論』ではないかと思っています。企業人としてはもちろん、みなさん方がこれからいろいろなところで活躍されるに際して、自分の属している事業体や団体だけではなく、国の富、国富を考えないと、この日本という国は駄目になるのではないでしょうか。
 「An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations」が、アダム・スミスの『国富論』の原題です。 一般的には「The Wealth of Nations」と呼ばれていますが、本来「An Inquiry into the Nature and Causes」が付いているのです。その性格や、依ってきたところの原因をよく調査して国富につなげましょうという意味です。
 わたくしは学生時代には全く勉強せず、バレーボールばかりやっていました。2年生の時からキャプテンとなり、当時の神戸大学バレー部は4部リーグから1部リーグに昇格しました。その当時のゼミの先生から、「おまえは勉強しないからこれを読んでおけ」と言って渡されたのが、アダム・スミスの『国富論』でした。そのため『国富論』だけは学生時代からそれなりに読んでいたのです。
 国富論の書き出しは、「Division of Labor」。分業を進めていけば、1人でピンを作るのに1日10本ぐらいしか作れないものが、10人で分業していけば1日4,000本も5,000本も作ることができるという分業システムから始まります。そして、労働の価値を表すのは何かということで、その対価として、作った物に対する価格を、1つの労働の対価として決めなければならない。決め方にはいろいろな決め方があり、自然に決まる価格「natural price」、実態で決まる価格「real price」、表面的に決まる価格「nominal price」、市場で決まる価格「market price」と、いろいろな価格があるけれども、一番重要なことはlaborのvalue、労働に対する価値をきちんと決めなければならないということが書かれています。
 そして、一生懸命努力し、各自が、自らの企業、あるいは自らの労働そのものに徹していれば国は落ち着いて良くなるというのが、有名な、見えざる手「invisible hand」です。わたくしはこれを社長に就任した2000年以来、社内外で言い続けています。
 アダム・スミスが『国富論』を書いた考え方の前提は、完全雇用がなされている時に、各自が努力すれば自然に「見えざる手」でマーケットも落ち着き、国富も上がるということです。現在、日本では5%前後の失業率があるので、完全雇用とはなっていません。完全雇用をいかにして作り出すかを、国がまず努力しなければなりません。先ほど述べた、国が行わなければならない重要な財政出動を行い、雇用を増やしていくことを進めなければデフレは解消しないと思います。雇用を増やし労働を提供する人々が増え、その労働への対価としてマーケットでpricing、valueが決まってくれば、デフレは解消するはずですが、それが実際にはできていないというのが現状です。

 わたくしの会社では、少子高齢化対策も考え、数年前に派遣労働者をやめて全員を正社員にするということをやり、大きなニュースになりました。また、3人目以上の子どもが誕生したら、100万円のお祝い金を出しています。なかには、4人、5人、7人生まれた方もいます。このように、各企業としての少子高齢化対策、デフレ対策を進めつつ、同時に国富も考えながら、各経営者が努力していくということが非常に重要なのではないでしょうか。

 

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2.エネルギー問題
 先ほど、デフレ対策とエネルギー問題と申しあげました。エネルギー問題については、わたくしは日本には原子力発電が絶対に必要という立場です。例えば、シェールガス、メタンハイドレートなど、さまざまな新エネルギーがあり、また、レンゴー自身もソーラーパネルを積極的に設置し、再生可能エネルギーの利用に努めておりますが、日本経済全体を本当の意味で賄っていこうと思えば、今の日本に原子力は絶対必要だと考えています。
 その理由の1つは、エネルギーを作るためにはエネルギーを供給しなければならないということです。「EPR (Energy Profit Ratio)」という言葉があるのはご存じでしょうか。必要なエネルギーのアウトプットを得るために、どれだけのエネルギーのインプットが必要かという指数です。例えば、メタンハイドレートにしてもシェールガスにしても、まだ投入するエネルギー量の方が回収できるエネルギー量よりも多い状態であり、EPRを考えれば、現状では原子力発電がなければ日本は生きていけないと思います。

 

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3.試行錯誤
 同時に、技術開発も非常に重要です。先日、京大の山中先生がiPS細胞でノーベル賞を受賞されました。山中先生は神戸大学の後輩にもあたります。いろいろな研究をしたけれど、なかなかうまくいかず、在庫整理という思いで一度まとめてやってみたらあのような新しいiPS細胞が生まれた。そこから彼の能力がどっと出てきたわけです。自分は必死に努力したのに何もできない、もう駄目だとあきらめてはいけません。偶然やチャンスは誰にも平等にあり、努力をすれば必ず報われると信じています。
 わたくし自身も、もともと昭和37年4月に住友商事に入社しましたが、その年に、社内で初めて紙パルプ課ができ、そこに配属されました。当時、住友商事が紙パに進出し、初めて系列化した摂津板紙という会社があり、わたくしはいきなりこの会社に出向し、6月から、本社勤めではなく工場の現場勤めをしました。
 そこに増田義雄さんという凄い社長がおられ、わずか22、3歳の若造を、製紙とはかくあるべしと徹底的に鍛えてくれたのです。約3年間摂津板紙に勤務し、住友商事に戻りました。そこからいろいろな仕事をしましたが、今度は海外の仕事をしなさいということで、海外へ出たわけです。

 わたくしが現在ある程度グローバルな人間だといえるようになったのも、海外でいろいろな経験やきっかけがあって、自分自身がどんどん変化してきたからです。最近の若い方は、海外へ出るのが嫌だという人がけっこう増えているようですが、日本は資源のない国であり、グローバリゼーションの中で生きていかざるをえません。英語でも中国語でもドイツ語でもよいので、是非とも日本語以外の言葉を1つはマスターする努力をしていただきたいと思います。そうすることによって、ひとりひとりがグローバルに対応できるようになれば、それが国富へとつながっていくものと思います。

 

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4.6Sと5S

 最後に、みなさんに贈りたい言葉があります。私は社内で「経営の基本は6Sだ」と言い続けています。これは、整理、整頓、清潔、清掃、躾、作法の「S」から始まる6つの言葉を表します。例えば、整理・整頓を徹底すれば、会社の在庫状況、製品の出荷状況が分かります。清潔・清掃をしっかりすれば、工場の安全を徹底させることができ、躾・作法は人づくりにつながります。
 一方、英語でいうところの「5S」も言い続けています。先ほどから述べてきたように、物事を進めるにあたってはスピードが絶対に必要ですが、1つ目はその「Speed」です、2つ目は物事を複雑にしないということで「Simplicity」、あるいは「Simple」、3つ目が自信を持って仕事にあたるという意味で「Self-confidence」。これは単に自信を持つというだけでなく、日本語でいう「矜持」という言葉が当てはまるかと思いますが、この矜持を持ってやって欲しいということです。4つ目は「Sentiment」。物事をなすには必ず心のありようが関わっており、お互いの心をよく理解して欲しいということです。そして最後が「Sympathy」です。わたくしの非常に好きな言葉として、武士道精神でいうところの「惻隠の情」がありますが、「Sympathy」とはこの惻隠の情が最も適した訳ではないかと思っています。
 このSpeed、Simple、Self-confidence、Sentiment、Sympathy、という英語の5Sと、整理、整頓、清潔、清掃、躾、作法、という日本語の6Sを、念頭にして物事を進めていただければ、みなさん方が本当の意味で国の富、国富に貢献できるのではないかと思います。

 Wealth of the Nation、国の富を常に考えながら、これからの人生を送っていただきたいと思います。