環境・社会 / 関西起業塾-切り拓け 日本の未来

関西起業塾-切り拓け 日本の未来

切り拓け 日本の未来 1
講師:レンゴー株式会社 代表取締役社長 大坪 清


1. レンゴーについて
2. 新仙台工場
3. 原理原則
4. 日本と世界の動き

 

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1.レンゴーについて
 レンゴーの創業者である井上貞治郎は、わが国で初めて段ボール事業に取り組み、シワシワにした紙と平らな紙を、いかに貼り合わせて強度を出すか、試行錯誤を重ねながらスタートしました。そして、当時“マツダランプ”と呼ばれていた電球や、化粧品のガラス瓶などの保護用に片面段ボールがクッションとして利用されたのが始まりです。
 製品ができた当初、どういう名前にするかを考えたわけですが、「段ボード」、「なまこ紙」などいろいろと考えた末に、当時、厚紙が「ボール紙」と呼ばれていたことから、段の付いたボール紙ということで「段ボール」と名付けたのです。
 井上貞治郎はなかなか心広やかな人で、「段ボール」を意匠登録し、他の会社には使わせないこともできたわけですが、世間の人に自分の開発したいろいろなノウハウをオープンにしていこうということで、「段ボール」というブランドも意匠登録しなかったのです。そのようなことで現在では「段ボール」が一般名詞として広く使用されています。
 こうして段ボールからスタートした「レンゴー」は、その後製紙事業に進出するとともに、さまざまな新しい包装形態を開発し事業が大きくなっていきました。現在、レンゴー株式会社単体では、37の工場があり、連結対象会社つまりグループ会社を全部入れますと、日本国内で工場は162カ所になります。さらに、中国、東南アジアを中心にして、40カ所の工場があり、グループ全体で200以上の工場、事業規模は売上5,000億円弱となっています。

 

 

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2.新仙台工場
 先の東日本大震災では、宮城県仙台市宮城野区に所在していた仙台工場が、マグニチュード9の大地震と大津波によって壊滅的被害を受けました。これから宮城県の生産拠点をどうするか、急遽、幹部全員を集め、さまざまな意見交換を行いました。その結果、やはり宮城から逃げない、絶対に宮城に工場を再建しようと決め、やるなら一刻も早くやろうということで、3月11日からわずか2週間後の3月29日に、内陸に位置する宮城県黒川郡大和町に土地を手当てすることを決定しました。
 事業を行う時、目的を達成しようとすれば、しっかりした工程表をつくらないと物事は進みません。まずは、その工程表の達成目標として、新仙台工場の起動日を翌年3月15日に決めました。結局、工事に入ったのが6月末で、最終的に工場が出来上がり、起動式を行ったのが目標通り翌年の3月15日でした。結果的に、わずか9カ月間で新しい工場を完成させることができたのです。起動式には宮城県の村井知事もお祝いに駆けつけていただきました。なぜ3月15日だったか。実は私の誕生日だったのです(笑)。
 ここで大事なことは、緊急時に大きな決断をし、トップが本当にやろうと決心し、そういう動きをすれば、ある程度のことは解決できるということです。
 そして、そのような状況で物事を進めるにあたって重要なことは、原理原則をよく知っておくということです。建築確認や土地の手当て、機械の発注なども、通常であれば無理と考えられることも、原理原則をよく知り、トップ同士の真剣な意思疎通ができれば、みなさま方が考えている以上のスピードで進めていけるということです。
 新仙台工場には、震災を風化させないとの思いで、モニュメント「一心の塔」と「絆 3.11」を設置しました。なぜ「一心の塔」と名付けたのかというと、戦国武将の毛利元就が吉田郡山城(広島県安芸高田市吉田町)の築城時、それまで人柱を建てていたものを、それではいけないということで、「百万一心」と刻んだ石碑を代わりに埋めたのですが、そこから名前をいただいたものです。この石碑は今も残っており、文字が風化して、「百万一心」の「百」が「一日」、「万」という字が「一力」とも読めるのです。私はこの「百万一心」という言葉を社内で絶えず言っており、全員が心を一つにすると同時に、ひとりひとりが日々自分の力を出していこうという気持ちを込めて、この「一日一力一心」、すなわち「百万一心」にあやかり「一心の塔」と名付けたのです。

 私は海外生活が長く、イギリスにも3年半ほどおりました。ロンドンから西に200キロのソールズベリーという街の近くに、ストーンヘンジという有名な遺跡があるのはご存じと思います。これは世界遺産にもなっていますが、このストーンヘンジはいわば「石の絆」です。このストーンヘンジ的なモニュメントをつくれば、ずっと残るのではないかと思い、宮城県在住の彫刻家である杉崎正則さんにお願いして、東北産の花崗岩でつくっていただいたわけです。みなさんも新仙台工場に来られる機会があれば是非ご覧いただければと思います。

 

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3. 原理原則
 先ほど原理原則ということを申しあげました。例えば、マグニチュード9の大地震といいますが、このマグニチュードとはいったい何を表しているのか、みなさん分かっているようでよく分かっていないのではないかと思います。
 マグニチュードとは、地震が発生するエネルギーの総量を表しています。マグニチュードは対数式になっており、地震のエネルギーをE、マグニチュードをMとするとlog10 E = 4.8 + 1.5Mで表すことができます。10を底にしたEが4.8+1.5M。これは対数であり、例えば、マグニチュード5を基準にし、これが6になったらどれぐらい増加するのでしょうか。これは10の1.5乗分のエネルギーが増えることになります。10の1.5乗とはどれぐらいか。10の1.5乗は、√1,000。これは、約32倍です。つまり、5から6へ、マグニチュードが1増えるだけで、32倍のエネルギーが発生するということです。7になったらどうなるか。これにまた32を掛けますから、約1,000倍になるわけです。だからマグニチュード5とマグニチュード7を比較すると、5よりも1,000倍の強さのエネルギーが発生しているということになります。
 では、マグニチュード9は5に比べるとどのくらいか。8の時は32,000倍、9は32,000に32を掛けるから100万倍です。マグニチュード5に対してマグニチュード9というのは、100万倍のエネルギーを持った地震ということですから、それはものすごい数字であることが分かります。
 原理原則を知るということで、マグニチュードとはいったい何か、この有名な式、ロガリズムで、log10 E = 4.8 + 1.5Mというのを覚えていただいたら、地震そのものについての感じ方も変わってくるのではと思います。
大震災の際には、自衛隊や警察、消防をはじめ多くのボランティアの方が来られ、人命救助にたずさわりました。その中に、「K9」という旗を持って人命救助をやっておられた一団や自衛隊がいたことに気付かれた方はいらっしゃいますか。これはレスキュー犬を使っていますよというしるしです。
 なぜK9というのか。英語で犬は普通dogと思っていらっしゃるでしょうが、科としての「イヌ」を表す時には「canine」といいます。canineの音をK9と表記し旗をつくり、自衛隊などのレスキュー犬を使ったチームをK9チームといっています。

 みなさんも物事の原理原則をよく知るという習慣を是非持っていただきたいと思います。

 

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4. 日本と世界の動き

 さて、世界の動きと、その中で日本はどういう状況にあるのかについて触れてみたいと思います。みなさんも感じておられるかもしれませんが、現在の日本の政治、経済はどちらも冷温停止の状態だと思います。では世界はどうかということですが、世界の動きの中で今一番気になっているのは、ヨーロッパ、中東、アジアといった地域で、これまで解決できていなかったさまざまな問題が一挙に噴き上がっていると思われることです。これが今後どうなるのか、わたくし自身もまだ解決方法を見つけられずにおりますが、何とかしなければいけないと思っています。
 日本は、とにかくまず選挙を早く行わなければならないと思います。改革しなければならないことは、経済面からデフレをいかに克服するかということです。もう1つが、エネルギー対策をどうしていくかということで、この2つが大きな問題です。
 デフレ克服のためには、まず政治がしっかりしなければなりません。財政は政治ですから、財政はいかにあるべきかという形をしっかりとつくること。そしてもう1つが金融です。これは日本銀行となるわけですが、政府と日銀との間で、財政政策と金融政策をいかにうまく連動させるかが大事です。
 先日、日銀の白川総裁が大阪へ来られ、経済人とのディスカッションの機会があり、直接お話しすることができました。
 わたくしから申しあげたのは、白川さんのやっていること自体はそれほど間違いではないけれども、日銀の発信力が弱くなっているということです。また、30年前に前川元日銀総裁が使われた言葉「日銀は奴雁(どがん)たれ」もご紹介しました。もともとは福沢諭吉の言葉ですが、日銀90周年記念の折に、当時の前川総裁が「日銀は奴雁たれ」と使われたものです。雁というのは群れで渡っていきますが、たとえ何百羽、何千羽が羽を休め、えさを食べている時でさえ、1羽だけは、上をずっと旋回したり、高い木があればその木に留まって周りを警戒している雁がいる。これを奴雁というのです。30年前、当時さまざまな問題があった中で、日銀が奴雁の役割を果たし、いろいろと手を打たれたのが前川総裁です。そして前川リポートが生まれ、日本は再び成長路線に戻ることができたのです。
 また、「F = ma」の話もしました。
F = maとはニュートンの法則で、Fは「force」力。mというのは「mass」質量です。aは「acceleration」加速度です。質量に加速度を掛けると力が生まれるというのがニュートンの法則です。これは中学か高校の理科で習われたかと思いますが、日銀が今やらなければならないのは、このニュートンの法則を金融政策に見立てて、Fをforceではなく「finance」に、massは「money」に代え、単に金融緩和を行うだけではなく、お金が回るためには加速度をつけないと本当の意味のfinanceはできませんよ、accelerationをつけていくにはどうしたらいいのかを、よく考えられたらいかがでしょうかと提言しました。
 経済学の先生方が隣にいらっしゃるので言いづらいですが、ついでに言うと、お金とGDPの関係において、M=kPY という有名な公式があります。Pは物価指数、YはGDPです。このGDPと物価水準を上げようと思えば、マーシャルのkは一定のため、Mの流通貨幣量を大きくしなければなりません。この式はどこから来ているかというと、わたくしの大好きなアダム・スミスです。
 また、ケインズが同じような公式MV=PQをつくっています。これは何かというと、Mは「money」お金、Vは「velocity」スピード、Pは「price」価格、Qは「quantity」量です。これを大きくするには、マネーを大きくしてスピードを上げることが必要です。accelerationとvelocityは大体同じ意味ですから、この公式を用いるというのが基本です。
 現在、BIS規制で、銀行の自己資本への規制が厳しくなっていますが、バーゼル3ではさらに厳しくしていこうという動きもあります。銀行の自己資本に対する管理が厳しすぎるため、お金が日銀から銀行に出ても銀行から先にいっていないという状況がかなり出ているように感じています。世界的な動きとしてのBIS規制はありますが、日本独自の金融政策を打ち出してもよいのではないかとわたくしは考えています。
 ヨーロッパでは、ECB (欧州中央銀行:European Central Bank)を中心に、ESM(European Stability Mechanism)というヨーロッパを安定させるためのメカニズムができています。ECBのドラギ総裁はなかなかの人物で、よくやられていると思います。先般IMFの総会が東京で行われましたが、IMFもこのESMに対してどう支援していくかを検討しており、ヨーロッパはギリシャ問題等ありますが、ある時期には落ち着いてくるのではないかと思っています。

アメリカでは、FRB(米連邦準備制度理事会:Federal Reserve Board)のバーナンキ議長が思いきってQE3を進めました。QE3とは、「Quantitative Easing program 3」ということで、アメリカの金融緩和の第3弾です。11月6日の大統領選挙では、オバマ大統領が勝つのではないかと思いますが、このQE3が効き、アメリカもやや落ち着いた経済状態になると思います。