環境・社会 / 先端教養科目・関西は今

ホーム環境・社会社会貢献活動大学生のための経営講座 > 先端教養科目・関西は今

先端教養科目・関西は今

逆説の経済論 1
講師:レンゴー株式会社 代表取締役社長 大坪 清


1. はじめに
2. 経済指標と段ボール
3. 東日本大震災について
4. フェイル・セーフ

 

大阪大学画像

 

1. はじめに
 当社は1909年(明治42年)に創業者の井上貞治郎が、日本で初めて段ボールを事業化しスタートした会社です。段ボールは、1850年代に英国で発明され、紙を重ね合わせることで強い強度をもった構造体になり、それを箱として使うというものです。英国で初めてできたものが米国へ渡り、米国で強い段ボールができあがったと伝わっています。
 板紙のことをボール紙と呼ぶのはご存じだと思いますが、「ボード」が発音しにくいため「ボール」紙と呼んでいるものです。今は当たり前に使われている「段ボール」は、創業者井上貞治郎が、段の付いたボール紙ということから「段ボール」と日本で初めて名付けたものです。
 当社は、創業以来、単に段ボールだけではなく、段ボールを作るための板紙、段ボールの中に使われる紙器、フィルム等の軟包装等に事業展開を進めてまいりました。特に皆様方に関係深い製品は、キオスクやセブン・イレブン等で売られているおにぎりやサンドイッチのフィルムです。おにぎりのフィルムの真ん中を両サイドに引くと、そのままのりの付いた状態で食べることができますが、これも当社グループ会社のパテントであり、フィルム自体も子会社で製造しています。当社はパッケージ、包装資材のあらゆるものを扱う連結売上高4749億円の会社です。
 1909年から今日まで102年を経て、この中で社長は5人しか出ていません。現在の大手企業の社長の在任期間は、4年から6年、長くて8年ということで、100年もたつと10人以上が当然ということですが、当社では、単純平均で約20年間、社長を務めていることになります。私は、社長に就任して12年目となり、長い期間、社長の任にあたっていると言えます。
 今の日本では、あまりに社長を務める期間が短すぎて、本当の意味で、会社を経営するというオーナーシップを持った人が非常に少ないと感じることもあり、この辺りについては、改革していく必要があると考えています。

 当社の創業当時の1909年は、日清戦争、日露戦争が終わって間もなくの日本が沸き返った頃で、この段ボールが非常に重宝され、時勢に乗りました。日露戦争は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」にも詳しく描かれ、秋山兄弟や正岡子規の活躍を書籍やドラマでご覧になった方も多いと思います。日本のような極東の小さな国がロシアという大きな強い国に対し勝てるはずがないと思われていた中、東郷元帥が率いる日本海軍の連合艦隊が、バルチック艦隊を日本海で破り大勝利し、日本全体が盛り上がっていた時期です。当時は、このような非常に優れたリーダーが日本で育つ素養があったと言えます。
 今の日本は、リーダーシップという面では、やや沈滞した状況になっているのではないでしょうか。
 皆さん方のような若い方達が、日本の将来を憂い、何とかしなければならないという気持ちを持って頑張っていただければと大いに期待しています。

 歴史を振り返るにあたり、器でその時代を表現する方法があります。最初が「石器時代」。土を加工することによって土器をつくる縄文式、弥生式「土器の時代」。続いて「青銅器時代」。鉄を加工し、道具をつくった「鉄器の時代」。先ほど言いました日清・日露戦争の時代は、木材を器にし、木箱を使用していた「木器の時代」だったと言えるでしょう。このような、石器、土器、青銅器、鉄器、木器と、時代を器で表現すると、現在は、「紙器の時代」だと言えるでしょう。その紙器のなかで最も普及している商品が段ボールであり、現在の紙器の時代を代表する商品、包装資材が段ボールであるということを覚えておいて欲しいと思います。

 

講義風景画像

 

2. 経済指標と段ボール
 「逆説の経済論」が、本日のテーマですが、私は、常識、正論ばかりだと世の中はうまくいかないのではないかと以前から感じています。
 例えばGDP(Gross Domestic Product)、国内総生産という言葉がありますが、このGDPの数字だけで、経済状況を判断することは、必ずしも正しくないのではないかと思っております。経済活動の生産面の動きをみることができる一つの商品が段ボールであり、この生産量の動きが、むしろ一つの経済の指標になり得るのではないでしょうか。
 私が社会人になった頃、1960年の日本のGDPは約70兆円でした。当時、段ボールの総生産量は10億㎡ぐらいでした。1970年には日本のGDPは188兆円に伸び、段ボール生産量は48億㎡となりました。1980年は、日本のGDPは284兆円、段ボール生産量は80億㎡です。そして1990年の日本のGDPは447兆円で、それに対して段ボールは123億㎡と、並行的に増加し、2000年は、日本のGDPは503兆円で、段ボールの生産量は135億㎡となりました。
 私はGDPだけで日本経済を判断することは、少し危ういのではないかと思います。なぜなら2010年の実質GDPの数字が540兆円とすれば、中間投入分を取り除いた数字であり、それら中間投入を加味した日本の総産出額(Gross output)は約1千兆円あるといえるでしょう。この1千兆円から中間投入を引き、最後の付加価値だけを算出し、GDP540兆円という数字となるのです。ところが、段ボールは、それら中間投入にも使われており、GDPの数字だけで日本経済を判断するよりも、段ボールがどう伸びているかという動きをみることの方が、日本経済がよりよく分かるのではないかと思います。

 

3. 東日本大震災について
 東日本大震災が起きた3月11日、私は14時30分発の飛行機で伊丹から羽田空港に向かう機内におりました。15時過ぎに羽田空港が混んでいるため着陸の順番を待つというアナウンスがありました。通常、ウェイティングをかけると千葉から大島にかけて旋回するのですが、このときは富士山が右に見えたり左に見えたりしました。この場所でウェイティングをかけるのはおかしいと思っていると、羽田空港が閉鎖となったため伊丹に引き返すとのアナウンスがあり、飛行機を降りると大変なことが起きていることが分かり急遽会社へ向かいました。
 すぐに総合対策本部を立ち上げ、善後策を講じるために情報を集めにかかりました。当社は仙台、福島、青森など東北、関東各地に工場があり、まずは人命最優先をかかげ、従業員の安否確認と工場の被害状況について、情報を集め続けました。
 やがて、特に仙台工場が津波によって壊滅的な被害を受けたことが分かりました。また、福島県の矢吹町にある福島矢吹工場、福島第一原発から25kmの地点にある子会社の丸三製紙、朋和産業の仙台工場などの工場での被害状況が徐々に明らかになってきました。
 福島県に所在する福島矢吹工場はソーラーパネルを8532枚敷き、1535kWの発電能力を持ち、昼間に必要な電力は全て太陽光発電で賄う当社でも最新鋭の工場で、地震による被害があったものの短期間に復旧し、ほっといたしました。
 最も被害が大きかった仙台工場については被災により再建不能という結論に至りましたが、宮城県内の内陸に20kmほど離れた黒川郡大和町の地に、新工場建設を決定しました。新聞記事をご覧いただいたかもしれませんが、宮城県内で工場を別の場所に移し再建するという記者発表をしたのは、当社が初めてであり予想していた以上の反響がありました。
 ただ、丸三製紙については、福島第一原発から25kmの緊急時避難準備区域内にあり、6月までは閉鎖の指示をしている状態です。(その後、6月20日から順次操業を再開している。)
 
4. フェイル・セーフ

 今回の大震災について、地震と津波は間違いなく天災ですが、原発問題はあくまで人災だと思います。海外の経済誌「The Economist」や「FINANCIAL TIMES」には、地震や津波は、天災“act of God”と表現され、福島第一原発等の原発の問題については、人災として“man-made disaster ”、“human error” あるいは“human neglect”と表現されています。
 私ども企業にとって、あるいは皆さんにもこれから気を付けていただきたいことは、人間が行うことには、必ず失敗やエラーがつきものであり、そこから重大な事故へとつながらないようにしなければならないということです。失敗を防ぐようなリスクマネジメント、安全管理ができるように努力いただきたいと思います。製造業では、これをフェイル・セーフと呼び、たとえ障害が発生しても安全に制御できる仕組み、システムを作っておくことが大事です。皆さんも今後、失敗やエラーをするかもしれません。日頃から様々な面でフェイル・セーフを念頭に準備をしておくことが大事なことでしょう。
 日本では原子力発電について、絶対大丈夫で安全だとする一種の安全神話が存在しておりました。これも辞書で調べていただければ分かりますが、英語で神話とは“myth(ミス)”であり、失敗もミスで発音はほとんど同じです。“myth”の日本語訳は、「広く信じられているが根拠のない説」です。もともと原子力発電は安全であるという安全神話は、英語では“the myth of safety”となりますが、この原子力発電所の安全神話は、実際には根拠のない物語を日本では神話として信じきっていたということなのです。
 昔から信じられているというだけで、実際には根拠のないものを妄信してしまうことで、どれほど大きな問題が起こるものか、今回の原発問題でよく学んだことだと思います。